今日の一曲 No.77:ダリウス・ミヨー作曲「組曲『ルネ王の暖炉』作品205」( Les Vents Français(レ・ヴァン・フランセ )木管五重奏団)

「今日の一曲」シリーズの第77回です。

今回、77枚目にご紹介する盤とここに納められた一曲は、私がまだ20歳前後だったそのくらいの時期に興味をもち始めた“フランスの音楽”の、この延長線上で出会えた音楽になります。

そして、私の場合、この曲を聴いていてはその度に、私めが音楽活動・ライヴ活動を始めたばかりの頃の記憶も一緒にほんのり優しく包んでくれる、そんな“暖かさ(あったかさ)”を感じるのです。

といった次第で、今回は、ご紹介の盤と一曲について、これを私めが音楽活動を始めたばかりの頃のそれとも併せて、諸々語らせていただこうと思います。

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《イントロダクション》

~“フランスの音楽”との関わり~

本題へと入る前に、先ずは恐縮ながら、私めと“フランスの音楽”これとの関わりについて、少し、語らせていただきたく思う。

所謂“フランスの音楽”ここに属するこれら音楽ついては、それがクラシック音楽の類であっても、またポピュラー音楽などであっても、なんだろうね、言葉で上手く表現できないのだけれど、私の場合、“音の一粒一粒に在る響き”のこうしたものが何やら特徴的に感じられて、また言い方によっては“素朴さと繊細さを含む”それが心地好くもあって。例えば、これまでの「今日の一曲」シリーズであるなら、第11回(2016/12/15公開)のなかで触れた、ミュンシュが指揮をするパリ管弦楽団、第23回(2016/02/16公開)でご紹介したシュミット作曲「ディオニソスの祭り」、これを演奏するギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団(通称「パリ・ギャルド」)、と、これらもそうで。よって、その都度私なりにあれやこれやと語らせてもらってきたことでもあり、“特徴的に感じられて”云々については、今回はこれ以上語らずに済まそうかと思う。ハハ、少しでも楽をしようという魂胆の、それだけだ。

ってなことで、簡単にまとめると・・・。そも“フランスの音楽”それへの関心は、いまに至って振り返ってみると、おそらく、17・18歳頃から20歳を少し越えたくらいの時期にきっかけがあったのかな。20歳前後のその頃に、殊、少しばかり集中的にこれら色々を聴いてた憶えがある。以来、フランスの作曲家による作品やフランスで育った演奏家たちの演奏には、他の音楽とはまた何か違う、ある種特殊な面白みを感じながらここに耳を傾けて聴くこれも、我が快感の内に在る、というわけなんだな。

ちなみに、私、フランスパンも好きでね。ん?

 

《不思議な感覚の、記憶》

さて、若き20歳前後だったそれからは30年ほど時が過ぎての、ある日。なんとまぁ、私めはそれまでに経験したことのない、自分自身でも意外に思う、そんな場所に立っていた。

ギターの弦を、Gコードでダウン・ストロークした最初の瞬間のことだ。ノリのいいアップテンポな曲の、そのイントロを弾き始めたはずだった。が、自身の感覚の何処がそうさせたのか、ギターを弾く自身の動作も鳴らしたギターの音も、何故かスローモーションのように映像化されて感じるのだ。そうである様子を自分がすぐ脇で観ている感じなのだ。また別には、自分だけが輝かしく眩しい光を浴びながらそこに立って居る、そんな感覚でもあった。

そして、自身、胸裡では、

「これだ!ここだ!」

と叫んだ気がする。

直後には、

「暖か(あったか)、だなぁ~」

とも・・・。ただし、こんどは何とも言えない心地好さのなか、胸裡のそこでそっと呟く感じであったように想う。

尤も、自分の身に起きた出来事を、当時の記憶を辿りつつこうして語っていては、これが自身の感情の具合とともに幾分か大袈裟な物言いになってしまうそれも無いとは言い切れず、この場合も当然否めないのだけれど。とは言え、あまりに不思議な感覚の、そうした体験であったことに決して偽りはなく、兎に角、後にも先にもこのような体験は他に憶えが無いわけで・・・。結局は、不思議な感覚に陥った不思議な体験だった、としか言えない。ま、敢えて、これをもう少しだけ砕いて謂うのなら、“こうしている自分こそが自分だ、此処こそが自分の居場所だ”と思えた、何やら安心した、そんな感覚だったかと。ぅん~、やっぱり少々大袈裟? 分かりにくい?

それより、『これって何のこと?』ってことだよね。

ぃやね、私めの、初ライヴ。一曲目の冒頭、ギターを最初に鳴らした瞬間の、そのときの記憶だ。

 

《おっ、これって》

その初ライヴから約10ヶ月後の2011年の2月には、ライヴツアーも始めていた。都内のライヴハウスで歌い奏でるだけでなく、日本各地へと出掛けて行って、それぞれの地そこでライヴをさせていただくようになったのは、その頃からだ。

それで、二度目のツアーとなった「冬から春へのライヴツアー2012(2012年2月末~4月上旬)」のこれから戻ってきて直ぐ、数日後のことだったように想う。私は、自宅最寄り駅より電車で約20分、売り場の広い割と大きなCDショップへと出掛けた。このときの目的は、大凡、オリジナルCD制作にもそろそろ挑戦してみたいなぁ、という思いがあったからで、CDジャケットのデザインや、どんな音楽のCDがどのように店内に置かれて売られているのか、こうした市場調査らしきことも兼ねて立ち寄ったのだった。

こういうときの私は半端でないよ。CDやDVDが置かれたラックのこれを、ジャンルなども関係なく端から端まですべてを眺めていくのだから。ま、謂ったら、ギターケースを背負った怪しげなオジさん、それでしかないのだった。

あっ、ちょっと補足させていただくと・・・。このとき何故わざわざギターまで抱えて持っていたかと言うと、その後に・・・夕刻の頃に・・・、立ち寄ったCDショップの近くでストリートライヴをやるつもりでいたからで。ハットは被っているし、余計、見た目に怪しくなっちゃったんだよねぇ。アハハハハ・・・。

 

こんなふうにして店内をウロウロと歩き回るなか、ラックに並ぶ、あるCDジャケットが視界に入った。

で、瞬間的に、

「おっ!これって!」

と思わず声に出してしまったんだな、これが。小声であったとは想うんだけどね。ぅん~、 いや、割と確りと発したかも知れない。そっと周囲を見渡すと、皆、気付かないでいてくれてる(=気付かないふりをしてくれているだけかも知れない、けど)。ふぅ~、気をつけなくては・・・。ますます怪しいオジさんになってしまうからね。

視界に入ったCDのそれが置かれたラックへと近寄ると、どうやら室内楽のCDを集めて置いた、そうしたコーナーであるらしかった。

「『Les Vents Français フランスの風~ザ・ベスト・クインテッド』って? もしかして・・・」

CDジャケットに書いてあるそれを読みながら、自身の記憶を探った。もちろん、声には出さずにね。

更に、手に取って、ジャケットの裏面やラベルに書かれている印字のそれらまでも確かめてみると、

「ああ、例の評判にもなった、あの人たちの・・・」

と気付いた。

やはり、そうだ。フランスのスターとも謂うべき演奏家たち、彼ら5人による木管五重奏団だ。

 

「Les Vents Français(レ・ヴァン・フランセ)」は、フランス出身であったり、フランスで音楽を学んでいた経験があったり、また、フランスの学校で音楽を教えていたり、と、フランスと縁の深い演奏家たち5人がメンバーとなって、その彼ら5人によって2002年に結成された木管五重奏団だ。

メンバーは、エマニュエル・パユ(フルート)、フランソワ・ルルー(オーボエ)、ポール・メイエ(クラリネット)、ラドヴァン・ヴラトコヴィッチ(ホルン)、ジルベール・オダン(バスーン) の5人。彼らのいずれもがソロイストとしても活躍していて、フランス国内だけでなく、ヨーロッパや世界中において多くから常に注目を集めている、謂わば、“スーパー演奏家”たちなのだ。

「Les Vents Français フランスの風~ザ・ベスト・クインテッド」とのタイトル名が付いたこのCDアルバムには、彼らによって演奏された曲が2枚のCDに収録されている。一枚は「フランスの管楽作品集」、もう一枚は「20世紀の管楽作品集」となっている。

 

早速、財布の中身と相談。

すると、声なき声が降りてきて「買いなさい」と言う。アハハ、冗談だよ。これこそイメージのそれだけだ。つまりは、自らがどうしても買いたくなって、これを購入したというだけの話だ。

 

《暖かなフランスの風》

自宅に戻ると、2枚組のそのCDのうち、先ずは、「フランスの管楽作品集」の盤から聴いた。

イベール、ラヴェルなどフランスの作曲家の作品が全5曲並ぶ。

が、私めの胸の内へは少し特別に感じて届く、一曲があった。

ダリウス・ミヨー作曲、「組曲『ルネ王の暖炉』作品205」。

 

この曲「組曲『ルネ王の暖炉』作品205」は、付属の解説書によると、元々、1939年に公開されたレイモン・ベルナール監督の映画「愛の騎馬行進」の挿入曲として創られた曲であったらしい。それをあらためて7つの小品組曲として編み直し、1941年に発表したのがこの作品なのだそうだ。曲の題名にある「ルネ王の暖炉」とは南フランスのプロヴァンス地方のことを指している。ここは冬季も陽光に満たされた土地で、中世のフランスでは国王たちも好んで訪れていたらしく、映画の内容と併せて、吟遊詩人などによって語られる故事のなかにはプロヴァンス地方のこれを「ルネ王の暖炉」と表現して伝える話もあって、これに準えてこの名が付いたという。

 

実際に聴いては、この組曲に在る7つの小品曲のどれからもプロヴァンス地方の穏やかな気候を“想像”させてくれる、そんな音たちを感じる。いや、私自身は、そのプロヴァンス地方のそこへと行ったことはないよ。まぁ、地理や歴史なども好きな方なので、これらつたない知識からプロヴァンス地方の穏やかな気候を自分なりに“想像”するだけだ。とは言うものの、7つの小品曲それぞれから奏でられる音たちによって、自分で“想像”したこれが更に刺激されるという、それもあるわけなんだよね。もちろん、曲調これ自体は7つそれぞれで異なるわけだけれど、なんだろうね、どことなく人が(フランス語で)語っている風な、そうした音の響きがこちら側へと届くそれは共通しているように思えるし、中世の民俗的な旋律のそれが漂うのと併せて作曲者であるミヨーが得意としている技法の一つ“複調性(幾つかの調を併行に用いる)ハーモニー”によるアレンジもあってのことなのだろう、これらが上手い具合に合わさって、これまた心地好くこっちへと届いてきては、作品と直接触れ合ってこその“想像”が、知識だけでは及ばないそれを補ってくれているように思うのだ。

しかも、演奏しているのが、この木管五重奏団だものな。メンバー一人ひとりの卓越した演奏技術に加え、5人に依る精確なまでに淀みのないアンサンブルのここからは、曲がもつ魅力を余すことなく表現する、これと、聴く者を圧倒する、そんな力を感じる。十分過ぎるほどのその演奏に、思わす、“完璧”と言ってしまいそうになるのだ。が、「Les Vents Français(レ・ヴァン・フランセ)」が奏でる音の力はこれだけでないように思う。それが何であるのか、実のところ、私にはよく分からない。ただ、私如き者が一つ謂えるとすれば、フランス式のクラリネットと、・・・ドイツ式のファゴットでなはなく・・・フランス式のバスーン(バソン)で演奏されている、そうした点もまた“フランスの風”ならではの響き、心地好さなのだろうな。

そう、初めてこの曲を彼らの演奏で聴いたそのときも、「暖か、だなぁ~」と感じた。そして、その後も聴く度に。

 

《物差し》

音楽活動を始めてから、また、ライヴツア・ツアーで各地へと出かけるようになってから、以来、感じていることがある。それは、音楽活動を通じて出会う人たちの多くがこれ以前までに出会ってきたそこでの世界の人たちとは違う、ということ。どちらが良いとか悪いとかではなくてね。

恐らくは、周囲や社会といった、あるいは時流といったものに依る尺度、そうしたある種の社会性・・・大方、多くの人が社会に対して抱いているであろう観念・・・のこれに従った物差しでもって他人を計っている人なのか、それとも、自分自身で常に物事を深く見つめ考えながら、こうした自身の深い考察とこれに伴う自身の行動のこれに従った物差しでもって他人を計っている人のか、その違いではないのかな。もしくは、後者においては他人を計るといったこれ自体がそも無いかも知れない。

だからなのか・・・ともまた決して一概には言えないけれど・・・、ライヴハウスやライヴカフェに出演させてもらっていては、いつも、「暖か、だなぁ~」と思える、こうした喜びに出会うことが多い。

いまに至って思うと、初ライヴのときも、ギターを最初に鳴らした瞬間のそこから、私自身は私の内なる何処かで、この「暖か、だなぁ~」を感じ始めていたのだろうかな。

 

ぃやぃやぃや、話があっちゃっこっちゃに飛んでド散らかってしまっているけど・・・。

要は、初ライヴで感じた「暖か、だなぁ~」と、「Les Vents Français(レ・ヴァン・フランセ)」の2枚組CDの、殊そのうちの一枚「フランスの管楽作品集」の盤に収められたダリウス・ミヨー作曲「組曲『ルネ王の暖炉』」から聴こえてくる音のその心地好さにある「暖か、だなぁ~」とは、感覚で得るこれがとてもよく似ているのだ。それでだろう、「組曲『ルネ王の暖炉』」を聴くと、その度に一緒に、初ライヴのときの、あの不思議な感覚を想い出すのだよね。

やっぱり、

「暖か、だなぁ~」

って。

そして、自分自身がステージに立つ側で居るときは、この「暖か、だなぁ~」といった感じを、自分ばかりが心地好く貰い受けているのではなくて、こんどは私から、私の演奏で客席へと届けられたなぁ、と一寸思ったりもするわけなんだ。いや、誠に恐縮ではあるけれど・・・。

現在、私めの音楽活動においては、「ほっと楽しやハートライヴ」という私自身がプロデュースするライヴの、これが活動の軸の一つとしてあるのだけれど。これなんかは当に、「暖か、だなぁ~」を、少しでも多くの皆様に感じてもらいたくて、ライヴハウスなどのこうした場所でこそ体感してもらいたくて、それで始めた企画で。

・・・もしも、読者の皆様のなかにも、「ほっと楽しやハートライヴ」これへの関心をもたれる方がいらっしゃいましたなら、機会をみて、その際は是非ともご来場いただきたく存じます。って、おい、ここは宣伝する場じゃぁなかったよな? はい、失礼しました。・・・

それだからって言うわけではないけれど、「暖か、だなぁ~」と感じるこの感覚は、人にとって、何かとても大切なものに思うんだ。ぅん~、何の説明にもなっていないけど。まぁ、敢えて申し上げるなら、先に謂った“物差し”の話が関係するのかなぁ。

 

「今日の一曲」シリーズの第77回、今回は、「Les Vents Français(レ・ヴァン・フランセ)」の2枚組CD、そのうちの一枚「フランスの管楽作品集」の盤に収められた、ダリウス・ミヨー作曲「組曲『ルネ王の暖炉』作品205」これを取り上げて、諸々語らせていただいた。