
「今日の一曲」の第77回です。
77枚目にご紹介する盤とその一曲は、高校生くらいのときから興味をもったフランス音楽の響き、この延長線上で出会えた演奏家たちとその一曲です。2010年以降、音楽活動・ライヴ活動をはじめた頃の話も挟みつつ書かせていただこうかと思います。
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ミュンシュが指揮をするパリ管弦楽団(第11回:2016/12/15に記載)、シュミット作曲「ディオニソスの祭り」を演奏するギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団<通称「パリ・ギャルド」>(第23回:2017/02/16に記載)・・・これらの音たちは、10代後半から20歳前の何の夢もなく覚悟も定まらない若ゾウにも一種独特の刺激を与えてくれた。それでフランスの音楽への関心はその後も好奇心を伴って続いた。
(そして、さらに30年ほどの歳月が過ぎて・・・)
2010年4月、二度目も生き長らえて社会復帰してからは2年くらいが経過して・・・
それまでに経験したことのない場所に立っていた。
Gコードをダウン・ストロークするピックでギター弦を弾くと、アップテンポの曲でイントロを弾き始めたはずがスローモーションのような情景に映っている。
スポットライトなどないこの場所に、自分だけが眩しい光を浴びている感覚・・・
<ここだ!>
<これだ!>
と胸裏でありながら強く叫んだ。
同時に、
<暖かな(あったかな)感触だなぁ~>
とも・・・。
さっきまでの襲い掛かってくるかのような緊張はすっかり消え去っていた。
そう、初ライヴ、一曲目の冒頭、ギターを最初に鳴らした瞬間のことだ。
2012年頃になると、都内のライヴハウスで歌い奏でるだけでなくて、
「いただいた命を確りと使い切りたい」
という思いは、各地へとライヴ・ツアーを実現させていた。
その頃のある日、「冬から春へのライヴツアー」から戻って直ぐくらいだった。
たいした目的もなくCDショップ内を・・・、あえて言うなら、音楽事情のあれこれを売り場で感じてみようかと、うろうろしていた。「自作CD」を試みようかと頭の中ではグルグルと廻り考えていたこともあったからだと思う。
こういうときは半端な調査はしない(笑)。ジャンルの隔たり無く、端から端まで全てに渡ってCDやDVDが置かれた棚を眺めていく。ギターケースを背負った完全に怪しげなオジさんだ(汗)。
「おっ!これって!」
と思わず、きっと、小声であったはずだけれど声に出してしまった。
ますます怪しげなオジさんだ(汗・汗)。
『Les Vents Francais 〜フランスの風:ザ・ベスト・クインテッド〜』と、ジャケットに書いてあるのが正面に向けられて棚に置いてある。
手に取って、ジャケットの裏側やラベルの印字をじっくりと見回す。
・・・どうやら、フランスの演奏家たちが集まって結成した木管五重奏団らしい。2枚組CDに収録されていて、1枚は「フランスの管楽作品集」、もう1枚は「20世紀の管楽作品集」となっている(上の写真)。
財布をそっと出してみて中身と相談・・・、
すると、声なき声が降りてくるのだった。
「買いなさい」
と・・・(笑:もちろん冗談だ)。
つまりは購入したということだ(笑)。
「レ・ヴァン・フランセ(Les Vents Francais):フランスの風」は、フランス出身もしくはフランスで音楽技術を磨いたり、フランスと縁のある演奏家たちによる木管五重奏団で、エマニュエル・パユ(フルート)、フランソワ・ルルー(オーボエ)、ポール・メイエ(クラリネット)、ラドヴァン・ヴラトコヴィッチ(ホルン)、ジルベール・オダン(バスーン) と、・・・こうしてあらためてCD付属の資料を眺めると、フランスだけでなくヨーロッパを中心に世界中で注目されているスーパー演奏家5人がメンバーであることを理解した。
それで、2枚組CDのうちの1枚「フランスの管楽作品集」の方から聴いた(今回はこの1枚の盤からのみご紹介)。
それは聴いた初めから心地好く胸の内に届く一曲だった。
ダリウス・ミヨー作曲、「組曲『ルネ王の暖炉』作品205」。
もともとは、1939年、レイモン・ベルナール監督の映画「愛の騎馬行進」の挿入曲で、それを1941年に7つの小品組曲として仕立て直したのがこの作品。
中世のフランス、南フランスのプロヴァンス地方は冬季も陽光に満たされた土地として王が好んで訪れていたとの故事に基づいて『ルネ王の暖炉』と呼ばれるようになったという・・・吟遊詩人などで語られる話を構成・表現している楽曲らしい。
確かに、聴いていると、7つの小品のどれもがプロバンス地方の穏やかな気候を想像させてくれるような響きで奏でられていく。組曲それぞれの曲調は異なるのだけれど、それは語るような(フランス語で)音で届いてきて・・・。ここには、中世のやや民俗的な旋律も漂いなかがら同時に作曲者ミヨーが得意としていた技法の一つ複調性(幾つかの調を併行に用いる)のハーモニーによるアレンジもあって、これらを心地好く届けてくれる。
それにしても、この木管五重奏団は、細部にまで渡って・・・それは各楽器の音色とコントラストを絶妙なバランスで紡ぎ編み、まったく淀みを感じさせない高いテクニックで豊かに表現して魅了していく。
加えて、フランス式のクラリネットと、ドイツ式のファゴットではなくフランス式のバスーン(バソン)という楽器で演奏されていることが真にフランスの特徴的な響きを醸し出す・・・「フランスの風」という意味の『Les Vents Francais』に繋がっているのだろうと納得。
ダリウス・ミヨーの「組曲『ルネ王の暖炉』作品205」と木管五重奏団「レ・ヴァン・フランセ(Les Vents Francais)」によるフランスの風は・・・、
「暖かな(あったかな)感触だなぁ~」
と、そっと、でも深く息を吐き出したくなる。
そう、初めて立ったあの場所とあの瞬間の感覚が、ふと重なるのだった。
音楽活動をはじめて、ライヴツア・ツアーで各地へと出かけて行って感じていることがある。
それは、その前までに出会ってきた世界の人たちと違うということ・・・。
どちらが良いとか悪いとかではなくて・・・。
でも、きっと、決めつけた一つの物差しだけで他人を測ったりはしない。幾つもの異なる物差しを持ち合わせていて何通りにでも如何様にも測ることができる・・・もしくは、他人を測るなどという思索も行為も最初から持たない人たちなのかも知れない。
だからなのか、いつも・・・、
「暖かな(あったかな)感触だなぁ~」
という喜びに出会う。
まぁ、南フランス・プロヴァンス地方の『ルネ王の暖炉』は実体験したことはないのだけれど、代わりに、音楽を通して出会う人たちによって、『音楽の暖炉』は実感できているのかなぁ~・・・掛け替えのない心地好い場所と瞬間として・・・。
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