今日の一曲 No.95:アーロン・コープランド作曲「オルガン交響曲」(レナード・バーンスタイン&ニューヨーク・フィルハーモニック&エドワード・パワー・ビッグス)

「今日の一曲」シリーズの第95回です。

今回、95枚目にご紹介する盤とそこに収録された一曲は、この1ヶ月ほどの間では、最も繰り返し聴いている盤と一曲になります。

それは最初に望んでからこの35年以上もの間、聴く機会がないままになっていた作品でした。ところが、偶然に偶然が重なったかのようにこの3ヶ月余りの間に急展開。今回ご紹介する盤が我が手元に届いたのです。それは今春また新たな一歩を踏み出すことになった私の環境に寄り添ってくれている一曲にもなっています。そんな一枚の盤と一曲をご紹介しながら、いつものように諸々語らせていただこうかと思います。

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それは木造モルタル造りのアパートの4畳半一間を借りて大学生生活を送っていた頃で、音楽が、日本で、アメリカやヨーロッパをはじめとした世界中で、歌謡曲もポップスも、ロックも、ジャズも、ディスコなどダンス・ミュージックも、「テクノ時代」と呼ばれる時流のなかで、ミュージシャン、アーティストたちが様々に新しい創造的な表現に挑み模索して生み出していった音たちで溢れていた。

勿論、個人的には多感な年齢期に重なってこれらを聴いていたから、おそらく興奮状態にあった脳みそが余計にそう感じさせていたということも否定はできないのだけれど、これを差し引いても、最近10~15年ほどの音楽とは比較にならないほどのエネルギーとパワーで変容が成されていた・・・そんな時代だったように思う。

だから、それは広く浅くであったかも知れないけれど、どうしたって片っ端から聴きいてみたくもなって、何から何までアレモコレモ聴いてしまうのだった。

 

さて、その当時、ここに更に加わえて興味を惹いた音楽があった。・・・それは、これまでの「今日の一曲」のなかでも紹介してきた20世紀以降のクラシック音楽作品で、少々乱暴に一括りにして言ってしまうと「現代音楽」と称される音楽だ。

第5回と第68回で紹介したストラヴィンスキーの作品に刺激されたのが最初で、第23回と第45回で紹介した F・シュミットの作品、その他の回で紹介したヴィラ・ロボス、チャンス、ハーバー、シュワントナーなどの作品もそうで、第13回と第63回で紹介した武満徹の作品などは中でも特別な存在になっていった。

これら「現代音楽」作品は、そのほとんどが、18歳頃から20歳代前半にかけて出会った音楽たちで、その当時は少々偏っていたかも知れないほど頻繁に自ら好んで聴いていた。

 

今回、ご紹介するのは、アーロン・コープランド(Aaron Copland)、1900年~1990年を生きたアメリカを代表する現代音楽作曲家の作品だ。

 

で、4畳半一間の部屋に居る間は、もっぱらFMラジオから流れてくる音楽が情報源だった。

事前にFMラジオ番組を紹介している雑誌(「FM-fan」など)でエアチェックをして狙いを定めて聴くこともあったけれど、大抵は曜日と時間帯によって好みの周波数にチューニングすることは無意識的に習慣化されていたので、それだけで聴きたい音楽あるいは聴いてみたい音楽がラジオから流れてくるのだった。それは容易なことで、当時はそれほどまでに音楽が溢れていたということでもあり、ラジオもまた音楽番組が色々と放送されていたのだよねぇ~。

 

平日のいつもの朝よりも3時間ほど遅く起きてラジオの電源をON。ラジオから発せられている音をBGM代わりに、ボケーっとした頭をゆっくりと目覚めさせながら部屋の掃除をする。掃除を済ませた丁度いいタイミングで流れてくる日曜日の朝のクラシック音楽もそうだった。

 

ある日曜日の朝、ふと聴こえてきた音楽は、おおよそクラシック音楽らしいものではなかった。

中学生の頃に好んで観ていた60年代の西部劇映画・・・例えば、「荒野の七人」(黒澤明監督の「七人の侍」をアメリカの西部劇にしてリメイクした映画で、ユル・ブリンナーやスティーブ・マックイーンが出演、音楽はエルマー・バーンスタイン)のテーマ曲のようなアメリカ映画音楽のポップス的な馴染みやすさと少し懐かしさを感じる音楽だった。

それだけに、このとき聴こえてきた音楽がそれほどまでに貴重なものとは想いもせず、単に、4畳半一間の部屋で大の字に寝転んでFMラジオから流れてくる音楽をそれ以上には何の注意も払わないまま何となく安心した気分で聴いていたのだった。だからなのだろう、このときの曲名も、演奏していた指揮者やオーケストラ名も、まったく記憶に残せていない。辛うじて、「(アーロン・)コープランド」という作曲者名だけを記憶したのだった。・・・いまから思うと、バレエ組曲の「アパラチアの春」などであったのかなぁ~・・・?

 

後になって、それも数日が経過してからだったように想う・・・ラジオから流れてきたその作品が気になりはじめて、記憶した「コープランド」という名前を頼りに音楽情報誌や図書館などに行って調べてみるのだった。が、その当時はあまりにこれらに関する資料が少なく、頼りないものしかなかった。分かった事と言えば、現在(その当時)、アメリカの現代音楽作曲家を代表するひとりで、アメリカ古謡やアメリカ文化を題材にした映画やバレエのための音楽、協奏曲や管弦楽曲などの作品がある・・・ということくらいだった。

ただ、調べているなかで、コープランドの初期の作品に「オルガン交響曲」というのがあることを知って、

「なんだか、面白そう」

という印象が更に加わったことは確かで、ますます好奇心は駆り立てられるのだった。

ラジオから流れてきた曲をもう一度聴きたいという思いもありながら、先ずはこいつを聴いてみたいという衝動の方が徐々に勝っていった。 

 

こうして頼りない情報だけで、それは行きつけのレコード店も他の店も幾つも当ってはみたのだけれど、「オルガン交響曲」が収録された盤どころか、他の作品も、コープランドの「コ」の字も見かけないような状況だった。日本国内のレコード会社が流通させている盤は当時は無かったように思う。それで可能性があるとすれば海外からの輸入盤ではあるらしいのだったけれど、それが一般に国内流通する可能性も非常に薄く、学生だった当時は購入をあきらめてしまった。

それで、またFMラジオで放送されることを期待して、エアチェックをしながら待ち構える準備もしてはいたのだけれど、アーロン・コープランドの楽曲が放送されることは、その後、1年~2年の間、あるいは私が学生でいる間は、まったく無かったのではないかと思う。

・・・こんなことを想い出すと、「インターネット社会」とは、いかに便利で開かれた社会であるかだ・・・かつ、驚異的な情報と流通が支配する時代をもたらしたのだと、あらためて感じる。

 

その後は、・・・これはこうして一旦あきらめてしまってからの記憶なので大雑把になってしまうのだけれど、日本国内でコープランドの作品が演奏されるようになったのは、それも僅かで、1990年前後になってからではないかと思う。コープランドが亡くなった1990年を過ぎて数年してから、あるいは2000年を過ぎてから、1950年代~1960年代に収録された演奏がCDに収められるようになって、ようやく、これら輸入盤を個人でもその気になれば海外から取り寄せることができるようになった。・・・でも、その程度であったかと思う。

そうは言っても、コープランドの作品に強い興味と関心をもった人であるなら、「交響曲第3番」やバレエ組曲の「アパラチアの春」、「ビリー・ザ・キッド」、「エル・サロン・メヒコ」などは、演奏者や録音時期が異なる何種類かの盤がCDで再版されるようにもなっていたので、このあたりの輸入盤を手に入れて楽しんでいたのではないだろうか。

・・・って、極めて他人事っぽいのは、この頃の私めは、ここ最近の「今日の一曲」のどこかにも書いたけれど、すっかり視野の狭くなった仕事人間になってしまっていて、CDショップの店頭にも並んでいない盤を、わざわざ注文したりするなどといった手間は面倒でしかなく、その音楽を何が何でも聴こうなどいう思考は消えて無くなっていた。

また同時期には、4年に1回くらい?、コープランドの短いファンファーレ曲や交響曲の一部分だけを演奏したものがテレビだったかラジオでだったかで放送されたこともあったように記憶している。それで、たまたまそれらを視聴することがあれば、

「おぉ!コープランドだぁ~!」

と、それなりには感動もしたけれど、それ以上の何かを求めることも消えて無くなっていた。

ただ・・・、

「そう言えば・・・オルガン交響曲って、どんなんだろうなぁ~」

といったくらいは、その度ごとに想い出していたように想う。

・・・

(様々、人生の転機とも思える経験と時を経て)

・・・

時は更にコープランドの音楽を初めて知ってから35年以上が経過した、それは3ヶ月と少し前のことになる。

NHK交響楽団が「第1899回定期演奏会」(2019/11/24)で、指揮者広上淳一とオルガン奏者の鈴木優人を迎えてコープランドの「オルガン交響曲」を演奏した・・・そのときの映像が今年の1月下旬頃にテレビのクラシック音楽番組で放送された。

普段ならその時間帯には部屋に居たりはしない、ましてやテレビを視聴したりすることは滅多にないのだけれど、その日はその時間にリモコンを手に持ってテレビの電源を入れた。チャンネル操作をしながら画面を何回か切り替えてはぼんやりとその画面を眺めていると、クラシック音楽番組が始まるところの字幕に「コープランド」の文字が並んでいるのを見つけた。

直ぐに続けて「オルガンと管弦楽のための交響曲」という楽曲名が紹介されるのだった。

テレビの前に釘付けになった。

・・・・

「面白いっ!!」

だけれど、これまでに数年おきに少しずつ耳にしてきたアメリカ文化の匂いに加えてポップス要素を感じる、そう、初めて聴いたときに印象もった60年代の西部劇映画のテーマ音楽やその後の80年代から90年代のジョン・ウィリアムズによるSF映画の映画音楽などの、もしかしたらその土台になったのでは?・・・と感じさせるようなコープランドの作品とはまるで違った。それはストラヴィンスキーからの影響を多分に受けている作品だと直感した。

「もう一度聴きたい!」

そう思ってしまったら、やはり収録されたCDが欲しくなってしまった。

ここ最近もCDショップの店頭で「コープランド」と書かれたものを見かけたことはない・・・そんな確信もあったのだけれど、もうこの時代だ、どうにかして盤を手に入れることはできるだろう、もしも無かったとしてもネット上で聴くことくらいは可能だろうと、早速、インターネット上を探った

 

今回、95枚目にご紹介する盤は・・・2018年8月に出されたCDで、このCDには、「交響曲第3番」と「オルガン交響曲」のコープランドの2作品を、レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック、オルガン奏者エドワード・パワー・ビッグスによって、それぞれ1966年と1967年にニューヨーク・フィルハーモニック・ホールで録音した演奏が収められている。

 

「交響曲第3番」についても簡単にご紹介すると、・・・4つの楽章からなる作品で1946年に完成、初演されている。前述したように、60年代の西部劇映画のテーマ音楽やその後の80年代から90年代のジョン・ウィリアムズによる映画音楽などの土台になったのでは?と感じさせるようなそれは華やかでありながら優しくも力強くもあって、洗練されたオーケストレーションによる響きを感じる作品と言える。広く多くの人の耳に馴染みやすいポップス的な要素を含んだ音楽であるように思う。・・・言わば、これが一般的に言うところのコープランド作品のイメージかと・・・。

 

対して、「オルガン交響曲」はこれとは全く異なる印象の音楽であることは先に書いた通りで、・・・3年間のパリ留学から戻ってきたばかりのコープランド24歳(1924年)のときの作品で、デビュー作とも言える最初期の作品のようだ。やはり想った通り、ストラヴィンスキーの影響を受けているという。

3つの楽章からなっていて・・・、

第1楽章・・・ゆったりとしたテンポでフルートが奏でる怪しげで不安定な感じの旋律が始まると、そのまま全体的に静かで不気味さを感じさせながら、弦楽器などのオーケストラは薄っすらと音を響かせ、その上に高音域のオルガンが怪しげな旋律引き継いで乗っかってくる。そのうちオルガンの低音域の音が静かに加わると、更に不気味さが増していく。

第2楽章・・・まさに、ストラヴィンスキー的な激しく刻み込んでくるリズムとやや変則的なアクセントがオーケストラの各楽器によって繰り返されながら徐々に強調されていく。ここに、オルガンが強烈な響きをもって加わって更に激しいリズムとアクセントが強調される。途中、一気に静まり返ってテンポもややゆっくりになるとオルガンの演奏を中心に第1楽章とはまた別の怪しさを纏った旋律で異空間にも誘われるのだけれど、それもつかの間、激しいリズムが再現される。

第3楽章・・・全体的にゆったりとしたテンポで、はじめは第1楽章にあった旋律が弦楽器によって静かに再現されるが、オーケストラの各楽器群によって徐々に音の厚みとテンポが増しては激しい感じを印象付けると、また静まってみせる。これを数回に渡って繰り返していくうちに、打楽器群と更にはオルガンが自らを主張すかのように加わってその音を響き渡らせて、力強く、荒々しく、壮大な空間を創りあげていく。が、突如、音は停まって終止符が打たれる。

 

ところで、このCD、今年の3月まで5年間アルバイトをさせてもらっていた職場の皆さんから贈られたものだ。最初は「乗り掛かった舟」で手伝うことになったのだけれど、その役目を2年間ほどで果たして、ここ3年間は何となくそれまでの流れで続けさせてもらっていたと言えなくもない。実はこんな状況に自身で迷い悩んでいた。

で、今年の3月末で辞めることにした。

そしたら、職場の皆さんから「何か贈らせて欲しい」というお話しをいただき、つまりはそれに甘えさせていただいて、図々しくもギターの弦とこのCDをお願いした。

 

4月からまた新たな一歩を踏み出したところ・・・、この決断をした瞬間のその覚悟を、日々何度も何度も心に刻み入れるような思いで、この贈られたCDを繰り返し聴いている。

 

「今日の一曲」の第95回は、新たな一歩を踏み出した今春に寄り添ってくれている音楽で・・・お世話になった職場の皆さんから贈られた盤とそこに収録された35年もの時を経て辿りついた一曲として、アーロン・コープランド作曲「オルガン交響曲」を、レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック、エドワード・パワー・ビッグス(オルガン)によって1967年に録音された演奏とともに、ご紹介させていただいた。