今日の一曲 No.87:アメリカ古謡「シェナンドー」(キングズ・シンガーズより)

「今日の一曲」シリーズの第87回です。87枚目にご紹介するこの盤は特に大切にしている一枚で、現在に至っては貴重な盤でもあるようです。ちょうど1年前に載せた第46回(2017/08/27記載)では、彼らのライヴを丸ごと収録したLPレコード盤(2枚組)をご紹介しました。・・・彼らの歌声と澱みないハーモニーの演奏にもっともっと早くに出会いたかったぁ〜・・・と。今回ご紹介する盤もまた、そんな想いと重なりながら、でも、また少し違う当時の記憶を呼び起こさせてもくれます。では、特別な盤とそのなかに収録された特別な一曲をご紹介しながら、いつものように諸々書かせていただこうかと・・・。

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(すでに、第46回(2017/08/27記載)では、キングズ・シンガーズの10周年記念コンサート(1978年5月)を収録した2枚組LPレコード盤の紹介とともに、キングズ・シンガーズの存在を知った切っ掛けや彼らの演奏を収録した盤を手に入れるまでの詳しい経緯などについて書かせていただいている。これらを今回は恐縮ながら省略させていただく。)

 

ともかく、ア・カペラを中心とした男性ヴォーカルグループでは、私の知る限りではあるけれど、彼らの歌声とハーモニー、その演奏を越えるものを未だかつて聴いたことはない。・・・それは、キングズ・シンガーズを知った1989年~1990年当時に受けた大きな衝撃でもあって、彼らを知るまでに10年以上の遅れをとった感覚に陥って後悔するほどだった。

そのイギリスが生んだ・・・(何とも形容しがたい)男性6人のヴォーカル・グループの演奏を収録した盤をようやく手にすることができたのは、東京・三鷹の中古レコード店でだった。

その一つが、「10周年記念コンサート」の盤。

それと、もう1つあって・・・・。

 

《その背景には、バッハの「目覚めよと呼ぶ声あり」の旋律を奏でるピアノの音、そこに、やさいく包容力のあるウッドベースの響き、ドラムスのハイハットが目立たぬようにそっと刻む音が添えられて、ジャズの匂いが静かに醸し出されていく。》

 

「キングズ・シンガーズ ポップス・コレクション(THE KINGS SINGERS ENCORE)」というタイトルのアルバム、LPレコード盤だ。1971年にキングズ・シンガーズがロンドンのオリンピック・スタジオで録音したものを、日本のレコード会社が1979年に再版したものらしい。

そして、中古レコード店で手にしたこの盤は、市販流通していた盤ではなく、もともとはレコード店や販売ルート業者に配られていた見本盤だ。1989年~90年当時は若干割安で購入できたのだったけれど、これも現在に至っては貴重な盤ということらしい。

 

それは、A面の2曲目に収録された曲・・・

「ザ・ゴードン・ラングフォード・トリオ」が伴奏に加わってのジャズ風なアレンジに乗って、「キングズ・シンガーズ」の形容しがたいほどの歌声とハーモニーが聴こえてきた。

 

《静かにジャズの匂いを醸し出すトリオの演奏はあくまでもバックグラウンド。キングズ・シンガーズの歌声とハーモニー・バランスは、その一曲をどこまでも美しく優しく包み込むかのようにそれは確りと届いてくる。だけれど、決して、このバックグラウンドの色彩を壊すことなく、同調しあって、協調しあって聴こえてくる。》

 

当時は社会人7年目後半から8年目に掛けての頃。いろいろと問題のあった職場(これまで幾度となく記載してきた)を立て直して、「救世主」と称するほどに(このブログで私個人が勝手に称しているだけのこと)尊敬していた上司(現場のリーダー)は勇退という道を選ばれて、すでに、この職場にその姿はなかった。

 

私は少々厄介な状況にある部署に所属しながら、ある重要なミッションを遂行するチームにいた。

それでも、厄介な状況にワクワクさえして、そのミッション遂行を中心に日々挑んでいた。

「この厄介事を打破してみせることこそが(尊敬していた上司への)恩返しになる」

と思っていた。

まぁ、少々自信過剰気味か楽観主義が過ぎていたのかも知れないのだけれど、当然、このような心境になることは一人では難しかった。

 

難解な問題や状況の前に立たされたときにこそ、不思議にも思えるようなラッキーさが私にはある(第85回にも書いたような・・・:笑)。

それは、「人との出会い」であったり、「近くに居る人の存在」に他ならない。

 

このときも同じ部署内には、あの尊敬していた上司に鍛えられながら仕事を覚えてきた同世代の若ゾウ(当時28歳~30歳)が、意気の合う同僚として、仲間として、他に3人いたのだった。

「たった3人?・・・」。

いやいや、

「3人も!」

なのだよ。

仲間と言える存在は、自分の他に「1人」でもいるだけで大きい。それが「2人」であればそれがさらに倍増だ。まして、「3人」であるのだから・・・。

4人は雑談をするような自然発生的な集り方をしては、少しの時間でも顔をつき合わせて互いが抱える問題の解決策を相談し合った。それを次々とミッション遂行のアイディアへと換えていった。見出したアイディアは先輩職員やベテラン職員へと提案をして、その一つひとつがその後に成果を上げていった。

 

このときに経験した「チームワーク力」も、その後の生き方に大きく影響を及ぼしている。

 

さて、A面の2曲目に収録された「シェナンドー(Shenandoah)」という曲はアメリカの古い船乗りの歌だったらしい。カナダの毛皮貿易商の船頭またはミズーリ河で働く水夫の歌であったらしいのだ。船上での仕事や荷下ろしなどの力仕事の作業中に歌われた労働歌であったらしいのだけれど、何故に、こんなにも美しい旋律の歌なのだろうか・・・と想う。ちなみに、「シェナンドー」はアメリカ原住民の酋長の名からきていると言われている。

 

《ふと懐かしい・・・きっと幼いときから聴いて知っていた「シェナンドー」の美しい旋律。そこに、バッハの「目覚めよと呼ぶ声あり」をジャズ風の響きに乗せた旋律。これらが相まって、挑むばかりの心を、少しの時間、鎮めてくれるかのような柔らかい風となって包んでくれる。》

 

 

当時の若ゾウの、もしかしたら、ややのぼせ上がった、思い上がった脳みそには丁度好い具合の冷静さを取り戻してくれていた一曲だったのかも知れない。

・・・なるほど、船上の力仕事には常に危険が伴う。冷静な判断力や注意力も求めらていただろう。歌のテンポやリズムの強さ具合は多少違うにしても、美しい旋律は必要不可欠であったのかも・・・なんて。

・・・でもそんなことより、ただただ心地好くて、LPレコード盤の僅かな溝と溝との間、そこに、何度も、でも静かにそっと針を置き直しては、繰り返し聴いた一曲ということだ。

 

「シェナンドー」という一曲と、キングズ・シンガーズという(・・・何とも形容しがたい)男性ヴォーカル・グループの存在があってこそ、与えてもらえたラッキーな音楽のひと時だったと・・・。