今日の一曲 No.84:杏里「愛してるなんてとても言えない」(アルバム『ブギウギメインランド』より)

「今日の一曲」シリーズの第84回です。前々回から夏をイメージする曲を取り上げていますが、今回も「夏」、これに加えて「恋」・「女性」がテーマになっているアルバム、当時のLPレコード盤から一曲をご紹介させていただきます。あぁ〜そうでした・・・、この盤を手にした1988年の夏、それは結果的に、「昭和」という時代の「最後の夏」になったのでした。

では、その当時のことも絡めて書かせていただこうかと思います。

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それは、1988年の「夏」に狙いを定めて作られたアルバム、LPレコード盤だ。

アルバムの構成にも明確なコンセプトが示されている。

全10曲のうち、盤のA面の5曲を「EPISODE」とし、その続編として、盤のB面の5曲を「THERAPY」として配置している。5人の女性を主人公に描いたラヴ・ストーリー・アルバムと言ってよいかと思う。当時、流行っていたトレンディドラマ風なイメージだ。

全曲とも、作詞を吉元由美、作曲を杏里、アレンジを小倉泰治と、この3人が確りと組んでいるため、アルバムを全体を通して、このコンセプトにブレがない。だからだろう・・・聴く側にとっても、このアルバムの世界観に入り込みやすい、また、入り込んでしまう。

・・・

「えっ、似合わない?」

「おまえが聴いている姿が想像できない?」

・・・

きっと、いま、こんなふうに思って読み始めている方もいらっしゃることだろう。自分でも、そう思う(笑)。

が、「ジャンルを問わずどんな音楽でも聴く」・・・これが唯一、私の特技なのだよ・・・(笑)。

そうとは言え、若い女性をターゲットに出された感のあるこのアルバムを、当時、何ゆえに購入しようと思ったのか、その記憶はまるでない・・・。

 

当時は、社会人の1年目、2年目に続いた苦境(?:これまでも数回に渡って書いてきたので今回は省略)を何とか越えて、新たなるチャンスをくれた職場の救世主とも言える大人物のもと、業界のありとあらゆるノウハウ、スキルを叩き込まれながら社会人6年目を迎えていた。新たな業務を任されるようにもなって、仕事上、大切な軸となる部分が少しだけ分かり始めていた頃だ。

・・・ん~、いや、現在から振り返ってみると、当時、周囲から「飛ぶ鳥を落とす勢い」などと囁かれて、幾分、それこそ浮かれ気味に少々調子に乗っていた若ぞうであったかも知れない。そう言えば、浮かれた心持ちを逃さず見抜いて叱ってくれたのも、この救世主とも言える上司だった。自分では気付けずに、よく叱られたなぁ〜(笑)。

 

話をご紹介の音楽に戻そう。

 

ともかく、1988年の夏、このアルバムを購入した。

例の物静かそうなオジさんが独りで営んでいる近所のレコード店でだ。

手に持ったLPレコード盤のジャケットを眺めながら、「似合わないなぁ〜」と思いつつ買った・・・そんな記憶が、このブログを書いているうちにやはり想い出されてきた。

部屋に戻って、盤をレコードプレーヤーに置いて針を乗せる。はじめてこのLPレコード盤・アルバムを聴いたときの印象、それは割と明確な記憶としてあるのがむしろ不思議だ。

 

アルバム全体のサウンドは、80年代独特の、ギター、ベース、ドラムスにシンセサイザーの多彩なサウンドも取り入れたダンス・ポップ・ミュージックといった印象だ。ただ、ここにさらに、フォーンセクションやストリングスも交わって、あまり電子音的に偏らない豊かなグルーヴ感のあるサウンドで仕上げられている。

10曲の中には、テンポ感のあるビート中心の音楽ばかりではなく、少しリズムを緩めたミディアムテンポの曲やレゲエのリズムを取り入れた曲、ゆったりとしたバラード風の曲もある。が、10曲のどの曲も、このサウンドに乗っかって杏里のヴォーカルが映える。

杏里の声質や声の伸びやかさと併せて杏里がもつ独特の声の彩り具合が、バックのサウンドと一体化していて、とても聴き心地がよい。まさに、「夏」という音を演出している。そう、先に書いたアルバムのコンセプトともぴったりきている。

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と、この盤、アルバム全体をお薦めしたくなる。だから、「今日の一曲」として一曲に絞るのは本当のところ難しい・・・(汗)。

A面1曲目は切れのあるリズムとテンポ感にあふれる「BOOGIE WOOGIE MAINLAND」、A面4曲目は入りの歌詞がなんともイイ感じの「D.J.I LOVE YOU」、B面ラストに歌い上げられるバラード風な曲「SUMMER CANDLES」、・・・なんて書いていたら、全曲挙がってしまう。

 

では、覚悟をして、「ん~・・・」と、困って思わず唸ってしまいそうになりながらも敢えて一曲を挙げることにしよう。

A面の3曲目に収録された曲、

「愛してるなんてとても言えない」

だ。

小倉泰治がアレンジしたサウンド、杏里の曲、吉元由美の歌詞、もちろん、ヴォーカルとしての杏里の歌声、これら総てが、どれも少しも譲り合うことなく、同時に胸の内に飛び込んできては確りと刻み入ってくる・・・という意味で、この曲を一曲に挙げよう。もちろん、私的な感想としてだけれど・・・。

 

これが・・・運命なの?・・・

愛してると泣いたら結ばれるの?

You love me・・・

心を・・・

救う優しさは罪

 

・・・というサビの部分は特にだ。

この意味ありげな(当時のトレンディドラマ風な)恋の歌詞も、杏里の歌声を乗せるメロディもフレーズ感も、これらを支えるアレンジとサウンドも、どれもがストレートに響き合わさりながら届いてくる。

 

1988年の夏。「昭和」という時代の、これが「最後の夏」になるなんてことは誰も想ってもいなかったはずだ。

私事としては、社会人6年目くらいで勝手に自信をもちはじめて、新しい業務を任されては自分を疑うこともなく突き進んでいた「夏」だった。

そして、当時の日本の社会全体もまた、一部には見誤ることなく社会の危うさを感じて警鐘を鳴らす人も居たはずなのだけれど、日本社会全体は身勝手な自信に浮かれていたように思う。 

身勝手で独りよがりな自信は、物事の本質や大切なところを感じる感覚を、遂、鈍くさせてしまう。・・・現在なら少しは自ら戒めることもできるようになっているとは思うのだけれど(思いたいのだけれど)・・・。 

 

80年代流行のトレンディドラマにあったラヴ・ストーリーは、そんな少し浮かれ過ぎた社会や若者たちを描きながら、もしかすると深いところでは警告もしてくれていたのかも知れない。ただ、視聴者がこれに気付けていたかどうかは・・・???

こうした時代背景を映し出しながら夏の解放感と女性目線とも併せて音楽で思いっきり表現しようとしたのが、この杏里の「ブギウギメインランド」というアルバムであったのかも知れない。中でも、「愛してるなんてとても言えない」は、こうしたメッセージ性が色濃く詰まった一曲とも言えるのかも・・・。

でも、繰り返すけれど・・・、

当時は、そう、何も気付けていなかったのだよ。

きっと、少し浮かれながら聴いていたかと・・・(汗・笑)。