今日の一曲 No.82:山下達郎「MAGIC WAYS」(サウンドトラック盤「Big Wave」より)

「今日の一曲」の第82回です。

第81回も映画「フラッシュ・ダンス」のサウンドトラック盤から一曲をご紹介させていただきましたが、今回の第82回でご紹介する一曲も、この少しあとの映画「Big Wave」のサウンドトラック、LPレコード盤からになります。この映画の音楽を担当したのは、山下達郎さん。

さて、今年、関東地域はいつもよりも早目の夏本番。ふと、レコードラックからこの盤を取り出して聴いてみたくなったというわけです。話は、第81回にも書いた社会人なり立ての若ゾウの私めが右往左往しながら毎日を送っていた頃の話、これとも重なりますが、今回ご紹介の一曲と出会ったあの夏は「どんな夏だったのだろうか?」という記憶を辿って「今日の一曲」をご紹介させていただきます。

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夏は「海へ行く派?」それとも「山へ行く派?」と聞かれれば、おそらく「山」と応える方だ。これには、生まれ育った所も現在もまた住んでいる所もおおよそ同地域であるためにその地域的なものが多分に影響している。この地域からはいつも、緑豊かで、穏やかな稜線を描いた山々が見渡せる。海に出るには湘南方面か房総方面のいずれかに向かうようになるのだけれど、少し遠い。ん~、つまりは正直面倒くさい(汗)。言ってみれば、山々の自然に静かに触れられる環境がすぐ目の前にあるから・・・といったそれくらいの理由に過ぎない(笑)。

少し質問が変わって、「海に憧れる派?」それとも「山に憧れる派?」という質問になら、「どちらも・・・」という優柔不断な応え方になる。ただ、ここ最近は、無性に江の島周辺に行きたい衝動に駆られている。

 

<そう、あの夏は「海」も「山」もなかった>

 

1984年、サーフィンのドキュメンタリー映像が映画「Big Wave」となって公開された。大自然・大海が織りなすダイナミックでスケールの大きな、色鮮やかな映像に、加えて、そこに挑み共生する人間の姿も映し出されて話題になった。この映画の音楽を担当したのが山下達郎。

今回ご紹介する盤は映画公開とほぼ同時期に発売となったそのサウンドトラック盤、当時のLPレコード盤だ。

A面はアラン・オデイの歌詞(英詞)に山下達郎が作曲したオリジナル曲が6曲、B面はビーチボーイズの曲を中心に山下達郎が選曲してアレンジ・カバーした曲が5曲収録されている(B面のラストにもA面にあるオリジナル曲が1曲だけインストゥルメンタル的に収録されている)。

 

申し訳なくもあり恐縮ながら、個人的には特に山下達郎ファンということでもないことを言い訳に正確ではないかも知れないのだけれど、この頃、巷では、このサウンドトラック盤に収録された曲からは、「JODY」と「YOUR EYES」が度々耳に聴こえてくる曲でもあって、当時ヒットしていた曲であったように記憶している。

「JODY」は海とそこを渡る風を身体ごと受け止めるかのような爽快感と併せて、「YOUR EYES」は大海と空との境界を静かに見つめるような深い心境と併せて、それぞれ聴きたくなるような音楽だ。そして、どちらも、きっと海を目の前にしながら直接に感じるような、また感じてみたくなるような場面を想像させてくれる音楽だ。

 

<そう、あの夏は「海」も「山」もなかった>

 

社会人1年目の派閥争いで明け暮れている職場では両派閥のどちらにも属さないでいたら両者から干されてしまい事実上のクビに、いや、自らも半分は逃げたのだけれど・・・そのあとの社会人2年目だった。

1年目の職場で密かにフォローしてくれた同僚や先輩らのお蔭もあって、ほぼ同業種3つをアルバイトに掛け持つことで生活的には何とか繋ぐことができた。ただ、20歳代前半、仕事の進め方や環境、人間関係の違うところで、3つのアルバイト掛け持ちは身体的にというよりも心理的に少々きつかった。

土曜日や日曜日も3つのうち1つは仕事があって、何曜日かに一日全てが休日・フリーになることはなかった。ただ、平日の朝または昼間に3~4時間ほど空く日も週に3日あって、この生活に慣れるまでの暫くはここを休息やリラックスする時間にしていた。ま、朝・昼間の時間帯にフラフラと出歩くことに世間体的な抵抗感もあって部屋に籠ることにしていたという方が正確かも知れない。

それも夏を前にした6月頃には少しは要領を得て、休息というよりも、先々に繋がるであろうことを勉強しようと、こうした時間に当てるようになった。

真面目ということではなく、自身への危機感でしかなかった。

 

職場の派閥争い云々はあったものの、やはり社会人としても業界の人間としても未熟さゆえに招いた事態であったと、それは決して否めないと、この頃に自身を振り返ってもいた。

小学生時代から学校のお勉強が苦手だった者が高校生の後半になってある出来事をきっかけに慌てて大学進学を目指し、たまたま面倒見のいい友人のお蔭もあって奇蹟的にも大学にまで進んで、それだけに大学生活は無駄にすることなく有意義に過ごしたという自負もあった。が、実際に社会に出てみると、社会で生き抜いていくにはあまりに自分はひ弱だと感じた。生き抜くための知識も知恵をめぐらすスキルもトレーニングされていないと。本当のところ、ようやく実際に社会に出てから気付いたのだ。

 

夏、業界の採用に関わる重要な試験を受ける予定があったのでこれに向けての勉強も欠かせなかった。ただ、「この試験勉強なんぞは・・・」と言っては何だけれど、自身の中ではメインではなかった。知識がぬけ落ちないようにただ単に反復していればよいだけだったからだ。

それよりもっと、社会を知る、時代を知る、人間を知る、お金を知る、科学的に知る・・・などなど、これら全てを総合して、どういった考えをもって、どういった覚悟もって歩んでいくのか・・・これらのことに意識を向けて、「これは!」という本を書店で購入したり、図書館を利用しながら見つけ出しては次々と読みあさった。アルバイト以外の空いた時間の殆んどは本に噛り付いて過ごすようになった。

もっとも、こんなふうに本を読みあさっただけでそれが自身にどれほど身になっているかなどの確信が得られるわけではなかった。先々への不安が消えるわけでもなかった。それでも、現状、こうして本を読みあさりながら可能な限り学び続けることの他に、「方法」は思いつかなかった。

 

こんな不安とのバランスを調整してくれていたのが、この頃の私にとっての音楽だった。

そして、小学生だった頃から通う例の 近所にある物静かそうなオジさんが一人で営むレコード店へと時折・・・。

 

<そう、あの夏は「海」も「山」もなかった>

 

だから、あの夏は、この盤を手に取った。

おそらく・・・。

 

その一曲は、A面の4曲目に収録されいる。

「MAGIC WAYS」

ミディアムテンポながら符点音符の弾むようなリズムに乗せて奏でられるその曲は・・・

The way you whisper in my ear,to make my troubles disappear

It's magic

(君に囁かれると、心配事なんか吹っ飛んでしまう 魔法だね)

・・・・

というフレーズではじまる。

 

高い湿度と気温に汗ばむ身体に、少し行き場をなくしたような塞ぎがちな気分を、一瞬にして解放してくれるような曲に思えた。

 

日常に特別な「方法」は見当たらなかったけれど、音楽に触れていられる時間は少しだけ「特別な方法」が存在していることに気付かされた。

 

そう、あの夏は「MAGIC WAYS」。

 

そして、あの夏に読みあさった本たちから学んだことは、現在に至ってこそ、「MAGIC WAYS」になり得ているかと・・・(笑)。