番外編:救ってくれたのは「フースラー・メソード」(ボイストレーニングのお話)

それまでとは違うボイストレーニングを取り入れたのは、今年の夏も終わろうとしていた8月末頃のことでした。もちろん、ライヴ活動と併行してこれを続けて、初めのうちはライヴにおいても好感触であったのですが、

「何かおかしい・・・?」

「以前よりも自由にコントロールして歌えない」

といったことが徐々に増えはじめて、遂には、声までも満足に出せなくなってしまいました。

振り返って思えば最初に異変を感じたときに“ストップ”するべきでした。が、始めてから2ヵ月以上が経過した10月末頃なって、ようやくこれを中止。ま、時すでに遅しですね。

で、私に悪影響を及ぼしたこのボイストレーニングの話ではなくて、今回、ここで語らせていただくのは、ここからの『この危機を救ってくれた』方の、そのボイストレーニングのお話。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《失敗談その1》

~前向きな想いからではあったのだけど~

本題の「フースラー・メソード」の話に入る前に、先ずは、私めがやらかした愚かなる“失敗談”からご披露させていただきたく思う。ま、謂ったら、私の場合は、この“失敗談”あってこそ「フースラー・メソード」へと辿り着けた、といったところがあるのでね。

 

ってな次第で、早速、その“失敗談”から始めさせていただくことに。

 

おおよそ、問題が生じ始めたのは今年の9月下旬頃だった。で、これを迎えるまでの、それまでの私自身の歌声・歌唱について、先ずは恐縮ながら、これを自分なりに分析して申し上げさせていただくならば、殊、昨年から今年の7月頃までにかけては、ライヴ中のそのパフォーマンスという点においてであるなら、お客様には大方ご満足いただけるものをその客席へと届けることができていたかと。ま、私なりの自負も含めて、これに関してはそう言って差し支えないかと。あっ、いや、ちょっと自惚れてる感じで、なんだけど。

ただ、そうは謂っても、当然のことながら、「もうワンステップ上へ」といった思いのこれもあったわけで、好調に感じられていたこの間も、自身では、ギターの奏法もそうだけど、歌声や歌唱技術についても、これを常に探り続けてはいたのだった。ふぅ~ん、意外とマジメだったりして。エヘヘ。

 

さて、今年の夏のことだ。7月の下旬頃から1ヵ月間ほどギターをメンテナンスに出すことになって、・・・まぁ、これもまたそうせざるを得ない状態になったからなのだけれど(汗)・・・、それで仕方なく、9月上旬頃までのこの間については、ライヴ活動を休止することにした。ぅんなら折角だものね、これを機会に“歌うこと”のこれを集中的にかつ丁寧に見直してみようじゃないか、と思ってね・・・。丁度そんな折、これまでよりも“効率的に思える”ボイストレーニングを知ったのだった。

実際に数日間試してみると、声の立ち上がり具合が良いように感じた。

もちろん、ボイストレーニングというものは、その方法を変えたところで、数日はおろか数ヶ月程度で効果が表れるものではない、とされている。が、このまま、“効率的に思える”これを続けていくことにした。

暫くは、喉の具合など、少しずつ探りを入れながら慎重に進めていった。だから、本格的に導入し始めたのは、ギターもメンテナンスから戻ってきた8月末頃になってからだった。

本格的に始めてからは、一日約30分間、毎日休まず、これに取り組んだ。すると、効果は直ぐに表れた。ボイストレーニング後の曲練習では、その曲練習を始めた直後から声が出しやすく、これまでよりも声帯が鳴らしやすい感覚があった。また、カフェ等でミニライヴがある日(ほぼ毎週末)は、自宅を出る前にウォーミングアップを兼ねてこのボイストレーニングをしておけば、店内に入って直ぐであっても声を確りと鳴らすことができたし、とても楽に歌えた。

 

そう、始めて2週間くらいまでは良好に思えたのだよね~。

 

ところがだ、「えっ?」と感じることが、その後、日々徐々に増えていった。

 

《失敗談その2》

~間違った方向のままに~

悪影響を明らかに感じるようになったのは・・・これもいまから振り返ると、だけど・・・、先にも申し上げた通り、恐らく、9月下旬頃からで。初めのうちは、大抵が、自宅から少し遠い所のライヴハウスなどへと出掛けて行ってライヴをする、こうした場合だった。

ライヴハウスなどでライヴをするときは、先ずは音響さんとサウンド・チェックを兼ねたリハーサルをして、これを終えて2~3時間後に本番の演奏を迎えることが多いのだけれど。その悪影響を感じる場合には、リハーサルの時点で割と好い感触があっても、いざ本番になると、「何かいま一つ、声のコントロールがしにくいなぁ~」と感じた。それでもその頃は、発している声の感じから、歌えている、という感覚がまだあった。

でもそのうちに、“何かいま一つ・・・”などという、それどころではなくなった。「想うようにコントロールできないぞ」と感じることの方が多くなったのだ。本来ならば、この時点で“ストップ”だ!

が、私めは、更に続けてしまうのだった。とうとう、本番を終えた後の数時間してもまだ、喉への負担や疲労感を感じるようになった。多くは、「ボイストレーニング(兼ウォーミングアップ)」と「リハーサル」と「ライヴ本番」を行う各時間の間隔が空けば空くほど、こうしたときに、喉へのダメージを感じた。

いやいや、こうなれば、さすがに止めるでしょ、普通は!

 

ところが、こんなんであるのに私は馬鹿だねぇ、「このボイストレーニングを間違った解釈でやってしまっていないか?」といった方へ考えが向いてしまうのだよ。それで、続けてきたボイストレーニングについて再チェックをする、ここへと労力を割いてしまうのだ。併せて、「ボイストレーニングは数ヶ月で効果が表れるものではないからもう少し続けてみなくては!」といった考えに固執してしまうのだよねぇ。あぁ~あ。

 

そして10月に入ると、こんな状態であるにもかかわらず、「秋のライヴツアー2019」へと、また、「ほっと楽しやハートライヴ(第15夜)」にも臨んでしまうのだった(汗)。

(*「秋のライヴツアー2019」と「ほっと楽しやハートライヴ(第15夜)」の、これらライヴ当日の様子については、それぞれ先月のうちに「ライヴ報告」として、同じく本ホームページの「ブログ」に記載させていただきました)

 

当然、これらをやり終えた後の、声や喉の具合といったものはタイヘンなことに・・・。もう、ほんとダメダメだねぇ。

 

10月の末頃だ。“効率的に思える”ボイストレーニングのこれを始めてからは2ヵ月以上が経過していた。ふと首周りを手で触ると、もう違和感しかなかった。声帯やその周りの筋などが腫れてしまっているような感触だ。そして、遂に、歌えるような声は満足に出せなくなってしまった。

こんな状態にまでなって、ようやく、このボイストレーニングを中止したのだった。

“失敗談”は以上だ。トホホ・・・。

 

そろそろ、本題の「フースラー・メソード」の話へと入ろう。

 

《フースラー・メソードしかない!》

幸いに、と言っていいかと思うけど、歌えなくなってしまった10月末のここから11月上旬に掛けてのこの間、3週間ほどは、元々予定としてライヴを入れてなかった。先ずは喉を休ませることにした。

喉を休ませて5日ほどすると、首周りを手で触って感じる違和感はやや薄れてきた。が、少しだけ歌ってみようとすると、歌えなくもないのだけれど、以前の・・・今年の7月頃までのような声の・・・、その状態からは程遠く、まして、お客様を前にしながら歌うような、そういったレベルには全くないわけで。ぃやぁ~、最悪だぁ、と思う状況のそれは相変わらずだった。

 

そんなときだった。ふと何気に部屋の書棚に視線がいった。

「フースラー・メソード、かぁ」・・・。

視線の先にあったのは、「フースラー・メソード入門(武田梵声 著、日本実業出版社)」というボイストレーニングの本だった。2年ほど前に購入したDVD付きの本だ。

ところが、当時は、この本に書かれている内容と付属のDVDのこれを頼るにしても、自分自身の下地にある知識や経験だけでは、「フースラー・メソード」というボイストレーニングを正しく取り入れるそれは、とてもじゃないけど難しい、と感じた。それこそ、少しでも間違った解釈のままこれを取り入れてしまったなら、喉を壊してしまう、と思ったのだ。それで、このときは諦めてしまったんだなぁ。

が、こんどは、この本を二度三度と読み返し、付属のDVDも何度も見直した。

あらためて丁寧に読み込んでみると、『人間が本来もっている声帯機能を回復させる』ことを軸としたメソードだった。

 

このフースラー・メソードの『人間が本来もっている声帯機能を回復させる』という、その理論の中心は・・・、

①声帯そのものがその機能を果たすためにある「声帯筋」、「輪状甲状筋」、「斜・横披裂筋」、「外側輪状披裂筋」、「後輪状披裂筋」

②声帯の機能を支えるために声帯の周辺にある「胸骨甲状筋」、「甲状舌骨筋」、「輪状咽頭筋」、「茎突咽頭筋」、「口蓋筋群」

これら①と②を「バランス良く」&「全てを強化する」ためには如何なる手法によって為すのが適切か? といった問いのここから始まっている。これを、「医学」や「解剖学」、あるいは「脳科学」などによる科学的な研究と、一方では、「民族音楽」、「芸術・芸能史」なども紐解きながら、これらそれぞれにある個別的な成り立ちを、総合的な繋がりのある理論および正しい手法へと編み上げていったのが、このメソードだ。ここに関わる調査・分析に携わってきた研究者たちの数々の成果を基に、根源的な要素を重視した上で構築したメソードがこれだ。しかも、誰もが取り組めるボイストレーニングとして、これが仕上げられている。・・・ま、本に書かれた解説を私が解釈して要約すれば、だけど。

ちなみに、19世紀以降にハリウッドを中心に広がりを見せたボイストレーニングの・・・それはまた現在において多くで取り入れられているボイストレーニングでもあるのだけれど・・・その手法とは、似てはいても根本で異なるものである、とそう理解するのが正しいようだ。

2年前、この本を手にしたときの私は、おそらく、「フースラー・メソード」というものに関心を寄せながらも、ここにあるトレーニング“手法”ばかりに答えを求めていたのだろうね。やり方や進め方など、“How to 的なこと”ばかりに囚われてこれを読んでいたに違いない。だから、この「フースラー・メソード」に在るその“本質”を捉えられず、肝心な事柄ほど見逃してしまっていたのじゃぁないかな。

 

満足に声が出せず、歌えなくなってしまっていた私は、「『人間が本来もっている声帯機能を回復させる』これだ!」と思った。そして、 「『フースラー・メソード』をやってみるしかない!」と決断した。

こうして、実際、「フースラー・メソード」に取り組み始めたのは、喉を休ませてから8日間ほどしてだった。今月初旬のことだ。

いやぁ、随分と、遠回りしちゃったぁ。

 

フースラー・メソードの実践と効果》

最初は、「フースラー・メソード」の中でも最も基本とされる、かつ、重要であるとされている、「アンザッツ・メソードの7つの発声法」と「吸気性の6つの発声法」の、これだけを始めた。

「フースラー・メソード」では、一日に3分~5分、長くても8分以内で終えるよう指示がされている。

経過を見極められるまでは、曲練習もしないことにした。

(*「アンザッツ・メソードの7つの発声法」と「吸気性の6つの発声法」については、下記の《参考程度に》にその発声のイメージを記しておきました)

すると、「フースラー・メソード」を始めてから4日目、首周りに感じていた違和感や腫れの感触は完全に消えて無くなっていた。喉やその周辺も軽くなった。それどころか、身体全体までが楽になったようだった。

5日目には、曲練習も軽く20分程度再開した。「ああ、元に戻ったぁ~。よかったぁ~」という感触を得た。

「フースラー・メソード」による発声法のいずれもが、日を追うごとに発声しやすくなっていった。

 

「フースラー・メソード」を始めて3週間ほど経過した11月中旬頃には、週末の「ミニライヴ(生音ライヴ・約20~25分)」も再開した。

これ以降、および現在は、少なくとも以前・・・今年の7月頃まで・・・の歌声と同じ、そのレベルくらいまでには戻っているかと。そして、その歌とギターの演奏も、おおよそ、客席に向けては、お客様にご満足いただけるものをお届けできているのではないだろうか。またしても手前味噌的で、なんだけど。いや、恐縮ながら・・・。

 

《反省「良薬口に苦し」》

「フースラー・メソード」の理論のこれに立てば、結局、8月の終わり頃から約2ヵ月以上に渡って取り入れていたボイストレーニングは間違いだらけだった、ということになる。

が、そのボイストレーニングを紹介したもの(書籍類やネット上の情報)を責めるよりも、“効率的に思える”などといった表面的な事柄の、こうした目先のことばかりに囚われていた“私の愚かなる心構え”の方こそが、そも間違いであったわけで。情報過多の現代社会にあって、しかも音楽の世界においては根拠の薄い迷信的なものも少なくない、そのくらいことは自身でも十分に分かっていたつもりなのに、ね。この有様だ。我ながらナサケナイ。

こんな私めは、いま当に、人の、その時々瞬間の、“考え方”や“心構え”というものは、「よほど確りとした軸をもったものでなければならない」と、そう感じているところだ。いや、実に、反省させられる。上辺だけを覗いて上手いことをしようなどと思って選択すると、とんでもない目に遭うのだ。

今回もまた、“失敗”というイイ薬が私には処方された。“良薬口に苦し”だねぇ~。

 

でも、ホント、「フースラー・メソード」によって救われた。

 

《最後に:近況報告と願い》

さて現在は、前述した「アンザッツ・メソードの7つの発声法」と「吸気性の6つの発声法」に加えて、やはり「フースラー・メソード」の中にある「ガム(ノイズ発声の一つ)」や、アンザッツ・メソードのうちの4つの発声とそれを吸気性にした発声を交互に素早く行う「カタジャック」なども取り入れている。それでも、一日7~8分程度で終えるようにしている。

更には、「フースラー・メソード」と併せて、演奏するとき(ギターの構え方も含めて)の、身体全体の姿勢と身体各部の使い方についても工夫をしているところだ。もしかしたら、「ワンステップ上へ」が今度こそ実現しつつあるのかも知れない。ナンテね。

 

(*次回で16回目となる「ほっと楽しやハートライヴ(第16夜)」については、これまでの流れからすれば、年明け1月に開催するのが本来かと思います。が、誠に勝手ながら、現在ここで身に付けつつある奏法が身体に染み込むまでは開催をお待ちいただこうかと、そんなふうに考えています(少し悩んでもいます))

 

最後に・・・、

音楽や歌に興味・関心をもっておられる方は、それはたいへん多くいらしゃることと思います。その中で、歌うことや発声法に悩みを抱えていらっしゃる方もまた少なくないかと。

今回、ここに記載した事柄のうち、それは私如き者の体験ではありますが、“失敗談”も含めて、皆様には僅かながらにも参考になることがあれば、これ幸いに存じます。

どうか皆様、皆様におかれましては『よき音楽を、よき歌を、届けていくことができますように』、『よき音楽に、よき歌に、触れられる機会に恵まれますように』、このこと、心より願っております。

 

ーーーーーーーー

《参考程度に》

*以下は、本当に『参考程度に』して、おおよそのイメージをするだけに留めてください。間違っても、これだけで取り組むようなことはしないでください。お願い申し上げます。

 

【アンザッツ・メソッドの7つの発声法】

1.志村けんさんのバカ殿のイメージ:「ミンミンミンミン・・・」「ヒッヒッヒッヒッ・・・」「ミィい~~~~」

2.歌のお兄さんのイメージ:「ハッハッハッハッ・・・」

3a.中尾彬さんのイメージ:「モァあ~~~~」

3b.藤山一郎さん、美輪明宏さんのイメージ:「ファあ~~~~」

4.ミッキーマウスのイメージ:「ホ~~~~」、「う~~~~」

5.ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじのイメージ:「ぁイ~~~~」

6.淡谷のり子さんのイメージ:「チャあ〜~~~」

(1.~3a.は地声(チェストボイス)、4.~6.は裏声(ファルセット)、3b.は地声に少し裏声がブレンドされた感じ)、(4.と5.と1.はこの順に事前のウォーミングアップとしてもこれを行っています)

 

**平成生まれ以降の方には、このイメージは伝わらないかもね~(汗:すみません)。

 

【吸気性6つの発声法(息を吸いながら発声)】

1.アンザッツの4.の吸気性発声:「ㇹお~~~」

2.アンザッツの3a.の吸気性発声:「モあ〜~~」

3.シュナル(極低音):ドアがきしみながら開くような音? 映画「呪怨」の俊雄くんのような声?

4.やや高めのシュナル:上記のシュナルよりも軽い感じで高めの音域?を含む

5.アンザッツの1.の吸気性発声:「ィやぁ~~~」

6.アンザッツの5.の吸気性発声:「ゥひぃ~~~」

(吸気性発声について、最初は「さんま」さんの引き笑い「ヤぁーハッハッハッハぁ~」をマネしてみることから入りました)

以上。