今日の一曲 No.75:ショパン作曲「ピアノ協奏曲第1番」(ステファンスカ&ロヴィツキ&ワルシャワ国立フィルハーモニー交響楽団)

「今日の一曲」の第75回です。

でも、まずは、「東日本大震災」またはその関連で、お亡くなりになられた方のご冥福をお祈り申し上げます。

今回、75枚目にご紹介する盤に収録されたその曲は、とても大好きな一曲です。が、少しばかり哀しい出来事にもふれながら今回は書かせていただくことになるかと・・・。

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都内に3ヵ所ほど、これら店のマスターのご厚意もあって、隠れ家的にいつも長居をさせてもらいながら詞や曲創りなどをして過ごすカフェがある。そのうちの一つには大抵1ヵ月に一度か二度は訪ねて、もちろん美味しい珈琲を味あわせていただくのだが・・・。

 

ところが、実は少しの間ご無沙汰してしまって、2ヶ月半くらい間が空いた(訪ねたのは2週間ほど前:2月下旬)。

 

「いらっしゃい」

「あれ?久しぶりだね」

「ブレンドでいい?」

とマスターが迎え入れてくれた。

いつものカウンター席の椅子に座らないうちから・・・。

でも、ゆっくりと定位置であるそのカウンター席に座っては・・・、

店内をゆっくり見渡しながら・・・、

いつものように、静かめの丁度好い加減の音量でクラシック音楽が流れているのを聴く。手のひらサイズくらいの小さなものだけれど年代ものの貴重そうなスピーカーが壁の高いところに埋め込まれていて、そこからその好い具合に響かせてくれている。

ブレンド・コーヒーが出された。もちろん、「ホット」だ(笑:訳は以前に書いたことがある)。

 

一口、そっと味わう。

<好いねぇ~>

<美味しい~>

 

マスターは知らせたいことがあって待っていたらしい・・・、一口を味わう様子を見届けると直ぐに、

「あの婆さん、2週間くらい前に亡くなったんだよ」

って。

「えっ?」

・・・・

『次に会えるかどうか分からないからさっ!』

『あなたも、簡単にくじけないで頑張りなさいよ!』

・・・などと別れ際に言われて、苦笑いしながらお婆さんの背中を見送ったのは、このカウンター席に二人で並んで珈琲を味わいながら楽しい音楽談義を交わし合った昨年末頃のことだった。

・・・・

「なぁ、誰も思わないよな、あんな元気そうで・・・」

とマスター。

「ん〜・・・」

とだけしか返事ができない・・・。

 

お婆さんは、ここのカフェの常連さんで、お琴の師匠。しかも、家系としてお琴の伝統技術を受け継いでいかなければならない家に生まれた方らしいのだ。

それが、戦後の昭和の時代では先進的なお琴の師匠としても活躍。お弟子さんをたくさん抱えながら伝統的な技の指導をするのと併せて、当時の歌謡ショーやテレビ番組企画で、流行の演歌や歌謡曲に邦楽楽器を取り入れるアレンジが求められるときには、業界では、

「先ずこの人に相談してから・・・」

という存在でもあったという。

当時は何も土台になるものが無かったから、歌手のバックで演奏するバンドの譜や音をもとに、お琴や他の邦楽楽器をどう効果的に使うか、また完成したらどう譜に残すのか・・・、などの難問と立ち向かい合いながらだったとか。

他にもこんな話が・・・

だから、身体も精神的な面もゆっくり休めたいときは、もっぱら、クラシック音楽を聴いた。でもそのうちに根っからの性分で、クラシック音楽にも詳しくなってしまったらしい。

 ・・・・

こうした話を、お婆さんが90歳を前にした4年くらい前から、このカフェで会うと聞かせてもらっていた。

最近の音楽にも興味・関心をもたれていて、お婆さんとの音楽談義はとても多岐に渡ってで、話題に事欠かすことなくいつも盛り上がった。ときどき毒舌的な話も出てくるのだけれど、そこには嫌味がなく、思わず笑えてしまうユーモアさもあって、見事なバランスと流れの心地好い話っぷりには恐れ入るばかりだった。

 

ここ数年は足に痛みがあって杖を使って歩くようだったけれど、変わらず元気だった。だから、一緒に暮らしていらっしゃる息子さん夫婦も想いもしなかったらしい。その日は突然で、息子さん夫婦が少し外出している間に、ご自身の部屋で静かに眠るように・・・。

 

<いつだって、別れは想うより先に来る・・・>

胸裏で時折つぶやく言葉なのだけれど、この時もだった。

 

唐突かも知れないけれど・・・、

「葬儀には、ショパン作曲の『ピアノ協奏曲第1番の第2楽章』を一度流してくれるだけでいい、あとは火葬場にもって行ってくれ・・・」と、私の子どもたち(長女・長男)には伝えてある。10年くらい前に言ったことがあるだけだから覚えているかどうか(笑)?

<このブログを読んだ方は憶えておいて欲しい、冗談です(笑)。>

 

ショパン作曲「ピアノ協奏曲第1番」にハマった最初は、中学生1年生のときに両親から毎月もらう小遣いを前借りして注文したクラシック音楽のLPレコード盤・全20巻の全集(以前に注文するまでを詳しく記したことがある)・・・この中の1枚からだった。

この全集、あなどれない。

中学生のときに購入してから、高校生・大学生・社会人へと年齢を重ねるにつれて、これでも僅かながらクラシック音楽に徐々に詳しくなってくると、収録されている演奏者たちの凄さ、その貴重な演奏が集められていることが分かってきた。

この盤も、ピアノはハリーナ・チェルニー・ステファンスカ、指揮者はヴィトールド・ロヴィツキで、ワルシャワ国立フィルハーモニー交響楽団の演奏を1960年代に収録したもの。・・・ショパンもポーランド出身、ステファンスカもロヴィツキもポーランド生まれ、オーケストラもポーランドを代表する交響楽団、・・・すべてがポーランドの音というわけだ。しかも、ステファンスカは1949年の「ショパン・コンクール」で1位になったピアニスト(ピアノの教本でも有名なチェルニーの子孫)。

 

このLPレコード盤を聴いた中学生当時から、この曲の特に第2楽章に魅せられてしまった。

穏やかに、静けさと共にゆったりと流れる甘くも儚い旋律は、でも、どこか、奥ゆかし気な中にも煌びやかさを感じる音が散りばめられていて、そっと光を感じる・・・。

だいたいが、ピアノ曲やピアノ協奏曲にハマる傾向にあるのだけれど、この曲の存在は他曲とは少し違う。

 

40歳少し手前の頃になってからだったと記憶するのだけれど・・・、

たまたま生演奏を聴く機会があった。それは少しズルイ感じも?

当時小学生だった長女が通っていたピアノ教室の先生のご厚意で、レッスンに通う子どもの家族の何組かがコンサート本番前のリハーサルに潜り込ませてもらったのだった(汗・笑)。

<こんなラッキーがあってもいいのか?>

と思えるほどで・・・、

それは、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、小林研一郎の指揮、ピアニストが???・・・思い出せない(調べてみたが記録ない:でも記憶違いということはないはず・・・(汗))のだけれど、その生演奏だもの!

リハーサルとは言え、感激!

涙があふれそうなほど・・・!

それで、このときに決めたのだ・・・私の葬儀にはと。

やはり、少し唐突か・・・。

 

さて、2ヵ月半ぶりに訪ねたカフェでも長居をさせてもらった・・・その日、カフェから部屋に帰ってきて、レコードラックから1枚の盤を取り出さないではいられなかった。

 

哀悼の意を、という思いで・・・。

 

ショパン作曲、「ピアノ協奏曲 第1番」。

ハリーナ・チェルニー・ステファンスカ&ヴィトールド・ロヴィツキ&ワルシャワ国立フィルハーモニー交響楽団演奏のLPレコード盤。

 

お婆さん・・・ご冥福をお祈り申し上げます。