今日の一曲 No.55:ふきのとう「影法師」(アルバム「思い出通り雨」より)

「今日の一曲」の第55回目。

前回の第54回目(2017/10/19)とほぼ同じ頃ではあるのだけれど、どうやら、そこに書かせてもらった「コッキーポップ」や「ポプコン」から知った音楽ではなかったように記憶する。

彼らも、その「ポプコン」の北海道大会で入賞か優勝かをした経歴の持ち主ではあるのだけれど、これらのことも、今回ご紹介する盤を手にした後、しばらくしてから徐々に知った。

 

「ふきのとう(山木康世・細坪基佳)」、6枚目のアルバム「思い出通り雨」。1978年のリリースで・・・、もちろん、LPレコード盤だ(笑)。

 

少しは真面目な高校生になって・・・、当の本人は、「生き方を変えるんだ!」と誓うほど心を入れ替えて過ごしているつもりで、こうして約10ヶ月、高校3年生の夏も過ぎた頃のことだ。大学進学にまで到達できるかなどといったことは見通せるような状況にはなかったが、受験勉強なるものに、特に休日は殆んどの時間を自宅に閉じこもってまで、ただ、ただ、取り組んでいた。

 

ほんの時折り、休憩がてら1時間ほど、近所にある(「今日の一曲」で何度も登場している)例のレコード店へと、特別な目的もなく、物静かそうなオジさんが一人で営んでいるその店で、アナログ・レコード盤に触れたくなって出掛けるのだった。

この日も、昼食後に休憩がてら、ふらりと出掛けた。

店に入ると、癖のようになってもいて、まずは、店奥のクラシック音楽系の盤が並ぶラックへと手を伸ばす。次にジャズや洋楽系へ、ポップス、ロック、流行真っ只中のディスコサウンド系やダンスミュージック系・・・、そして、当時は「ニューミュージック」と呼ばれた日本のポップスやロック、歌謡音楽へと・・・。でも、嗅覚が働く周辺に的を絞り込んで順に手を伸ばす。

 

ふと、ラックから手先で引き揚げたレコードジャケットに目が停まる。 

「ふきのとう」・・・?

脳の奥の方で「聞いたことがある名前だよ」と、ささやかれて、同時に、「フォーク系のグループだよなぁ~」・・・という認証が行われる。

それで・・・、

「聴いてみよう」

となったのだけれども、明確な目的もなく店に入ったのだった。

財布を覗くと、

「わぁ~・・・」

小声であっても完全に口から漏れ出していたと思う。

足りるだけの中身がないのだ。

オジさんまでもが残念そうな表情になる。

自転車で片道10分かぁ・・・と思いながら、机の引き出しにしまってある貯金箱の中身の記憶も呼び起こしてみる。

・・・

結局、すぐさま再度来店したときには、オジさんの顔もほころんだような・・・、いや、呆れていたのかも知れない。

・・・

というわけで、購入したときのことが確りと記憶されている。

 

この「今日の一曲」で幾度となく触れている通り、当時は、シンセサイザーなどの目覚ましい発展で、様々に、もう溢れるほどに、新しい音楽とサウンドが次々に産み出され、同時に日本では、シンガー・ソングライターの存在が一気に増していっている時代にあった。

 

「ふきのとう」のことをあまり知らずに、買ってきたばかりのアルバム「思い出通り雨」なるLPレコード盤に針を乗せてみる。

A面1曲目の「影法師」が、スピーカーから鳴りはじめた。

アコースティックギターの「スリーフィンガー」というらしいのだが軽快な分散和音が、シンプルな8(エイト)ビートのベースとドラムに乗って聴こえてくると、そこに、リコーダーがやさしく演出を加えている(*アレンジは、瀬尾一三)。

 

「フォークソング、フォークサウンドだ!」

「フォーク・デュオのハーモニー!」

そして、

「なんか、懐かしい~ィ」

と思えてしまう・・・たかだか十数年しか生きていない高校生のくせに・・・(笑)。

フォーク系の良さは、そのうちに歌詞までもが確りと身体に染み入ってくるような深さがあるところで、一層、懐かしさと歌詞から感じる風景が拡がる。

「影法師かぁ~」

無邪気に野っ原(のっぱら)を飛び回っていた幼い頃を思い出させてもくれる・・・。

 

それは、ほっとしていられる時間・・・になったのだと思う。

 

当時は「詰め込み主義の教育(高校生の教科書内容は科目に関係なく現在の高校生の約1.5倍から2倍近いくらいだったらしい)」と「ペーパーテスト重視の評価」。進路指導も「圧倒的な偏差値重視」。それをテレビなどで論じている評論家や教育関係者の言葉は馬鹿々々しく聞こえていた・・・。

「誰がそこで何を言っていても、今の仕組みが今すぐ変わるわけでもない。この仕組みの中で、今、高校生として生き抜かなければならないのだよ。大人たちの、お偉い方々の都合で作られている仕組でしょ?・・・子供たち、中学生・高校生たちを真剣に育てようと思ってできた仕組みじゃないでしょ・・・?」

・・・当時、わかったふうなだけの高校生が心の中で溜め込んでいたものでもあった。

 

レコード盤を丁寧にしまうと、また、問題集とノートを開いては、奥歯を噛み締めて気持ちを集中させた。

「やれることを、やり尽くそう。」

・・・

「ふきのとう」の温もりある音が、いま少しだけ、脳裏に残響としてあった。