「今日の一曲」の第31回目。
話は、前回からの続きになる。
それで、今回も、少々レアな“7インチシングル盤”から、ここに収録された一曲を、当時のエピソードと交えてご紹介させていただきたく思う。
もしも第30回目をお読みになられていなかったなら、チラっとでもお読みいただいた方が話の流れは分かりやすいかと・・・。
前回は3〜4歳頃のこと。今日ご紹介するのは、記憶の中では少しだけあとだったと思うのだが、きっと、4〜5歳頃のことだ。
洋服職人の叔父が遊びに来るたびに置いていってくれたレコード盤の中に、幼い当時の私が特に気に入って何度も繰り返し聴いていた盤が、もう一枚ある。
映画のテーマ曲「エデンの東」、「ヴィクター・ヤングとシンギング・ストリングス(Victor Young And His Singing Strings)」の演奏のもだ(上の写真)。
残念ながら、ジャケットは紛失してしまったらしく無いのだが、盤はきれいに保管してある。
おそらく、オーケストラ・アレンジの音楽を、自ら積極的に聴いた一番最初の曲がこのレコード盤の「エデンの東」だ。
映画はその後も観たことがない。大まかなストーリーだけは大学生くらいになってから知った。
幼い当時の私は、「エデンの東」というタイトルに疑問符が頭の中で一瞬だけ浮かんでは、そんなことより、この音楽の心地好いテンポ感、オーケストラの弦の響きと(特にチェロ)、そこに途中でピアノがメロディを奏で、穏やかで拡がりを感じるオーケストレーション・アレンジ・・・などなど、もちろん、これは現在の大人になった私が4〜5歳頃の私を代弁しての表現ではあるが、当時、伝わってくる音の総てから感覚的にこれらを感じて、聴くたびに感動していたことは確かだ。
ホント、何度も何度も繰り返し聴いていたのだから・・・。
そう、この頃は自分でレコード・プレーヤーの針を慎重に、慎重に、緊張しながら盤に置くのだった。そして、回転しはじめた盤を眺めながら「正座」して聴くのが「慣わし」(笑)。
映画音楽として日本でも人気の高かった「エデンの東」は、私の成長過程でも、テレビやラジオ、他のアナログ・レコード盤やCDの時代に入っても、オーケストラで演奏されたもの、ジャズ風にアレンジされたもの、ピアノ独奏になったものなど、様々な演奏形態やアレンジで聴くことができた。
が、前回の「禁じられた遊び」同様に、幼き日に洗脳されているのだろう、ヴィクター・ヤングのこのオーケストラによる「エデンの東」を超える演奏には出会うことは決してない。
「エデンの東」を切っ掛けに、オーケストラ編成の奥行ある豊かな響きがもたらす楽しさや喜びを知ったことに間違いはなく、その後、リストの「ハンガリー狂詩曲 第2番(オーケストラ版)」やケテルビーの「ペルシャの市場」、グリークの「ペールギュント組曲」などのクラシック音楽といわれるオーケストラ編成の曲も、小学校の低学年の頃に掛けて自ら好んで聴くようになる。
ま、どれも、叔父が置いていってくれたレコード盤からだ。
前回紹介したヴィセンテ・ゴメスの「禁じられた遊び」と並んで、ヴィクター・ヤングとシンギング・ストリングスによる「エデンの東」も、一人の「音楽好き」のルーツなのだと感じる。
もう少し積極的な子どもだったら早くに何か楽器をはじめていたのかも知れないが、何せ、無口な内向きの性格の子どもだったのだよ。
現在の姿からは想像もつかないか(笑)。
もっとも、時代的にも、環境からしても、子どもが楽器を習えるなどということさえ知る機会もなかったな。
だから、音楽は聴くだけの側で居られることで、それで満足だった。
そう言えば、私がだいぶ成長してからだったが、母が言っていたことがあった。
「レコードを聴いているだけで喜んでいたからオモチャを買わなくても済んだよ」と・・・。
イヤイヤ、オモチャだってふつうに欲しかったとは思うけど・・・と、幼き日の自分に同情する(笑)。が、それほど、レコード・プレーヤーの前で「正座」して音楽を聴いていたのだろう。
ここで、補足(笑)。
前回も今回も、母とその弟である洋服職人の叔父が登場するが、父の登場シーンはない。父は、12歳から塗装職人一筋の人間で、当時は音楽に触れることなどなかった人だった。否定もされなかったけれど。
さて、こうして、お蔭様で「音楽好き」になれたことで、当時から35年〜40年後に失いかけそうになった人生さえもが救われる。なんとも有難い。この幸運を導いてくれた全てに、ただ、ただ、感謝、感謝だ。
前回から引き続き、今回の「今日の一曲」も、一人の音楽好き誕生のルーツとなる一曲、加えて、他にない拡がりある豊かな響きを届けてくれたオーケストラ・アレンジの一曲として、ヴィクター・ヤングとシンギング・ストリングスの「エデンの東」を紹介させていただいた。
*以下、このレコード盤のレーベル部分の写真を載せました。
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