今日の一曲 No.66:ヴィラ・ロボス作曲 「木管五重奏『コーラス形式で』」(アンサンブル・ウィーン=ベルリン)

「今日の一曲」シリーズの第66回目です。今回は、当時のクラシック音楽界の中で、スーパー・スターたちの共演とも言える演奏を収録した盤とともに、一曲をご紹介させていただきます。

それでは・・・・、

・・・・

ドイツ式クラリネットの音色は、またフランス式のとは明らかに異なる主張をもって耳に届く。

<第19回目:2017/02/04 にも載せたけれど・・・>

高校生のときに、国内のクラリネット奏者の第一人者と評された村井祐児さんのリサイタルが、当時としては珍しく(東京の田舎町方面では)、自宅から比較的近いところで開かれて、運良くチケットを手にすることもできて、初めて、生で、プロのその演奏を聴いた。

これはフランス式クラリネット。

でも、これを切っ掛けにクラリネットの音色に魅了されていった。

そのうちに、ベルリン・フィルの首席クラリネット奏者でもあったカール・ライスター演奏のLPレコード盤に出会った。モーツアルトのクラリネット協奏曲が収録された盤だ。

「ちがうっ!」

クラリネットだけど、違うのだ。

で、フランス式とドイツ式があることを知った。

カール・ライスターの奏でるクラリネットはドイツ式だった。

・・・・・

フランス式の音色は、やや渋みがあって、豊かな表情と味わい深さを感じられて、これが心地好く感じられる。

ドイツ式は、これよりも、もう少しだけ、紳士的・貴婦人的というか、気取った感じをも演出して聴こえてくる。

 

高校生以来、クラリネットで演奏される楽曲に様々触れるようになると、ドイツ式では、カール・ライスターの音色とその演奏に更なる魅力を感じるようになっていった。それで、カール・ラースターを追いかけているうちに・・・・出会った盤が、

「アンサンブル・ウィーン=ベルリン」・・・1983年にウィーン・フィル管弦楽団、ウィーン交響楽団、ベルリン・フィル管弦楽団のヨーロッパ3大オーケストラに所属してそれぞれの楽器で首席奏者を務める5人の演奏家が集結、同1983年5月に録音、1984年に出されたLPレコード盤だ。

フルート奏者はヴォルグガング・シュルツ(ウィーン・フィル)、オーボエ奏者はハンスユルグ・シェレンベルガー(ベルリン・フィル)、ファゴット奏者はミラン・トゥルコヴィッチ(ウィーン交響)、ホルン奏者はギュンター・ヘグナー(ウィーン・フィル)、そして、クラリネット奏者はカール・ライスター(ベルリン・フィル)。80年代のクラシック音楽ファンなら誰もがその名を知っている5人による木管五重奏団、その演奏が収録された盤ということになる。

 

このLPレコード盤には、ハイドン(本当はプライエルかも?)作曲のディベルティメント、ダンツィやイベールの木管五重奏の定番ともいうべき作品が収録されている。が、そこに・・・、

 

「なに、なに、なに・・・」

「へえ~っ!凄い!・・・面白い!」

B面の最後に収録された作品とその演奏に、一気に五感が奪われるのだった。

あまりに無秩序に変化しながら進行する音たちは、でも決して不自然な変化ではなくて、南米民俗音楽の匂いを時折に漂わせては、更に僅かながらバッハのオルガン曲のような音の重なり方のスケールをも響かせて、聴き手を翻弄するかのように聴こえてくる・・・・

「この楽曲って?」

・・・・エイトール・ヴィラ・ロボス作曲、「木管五重奏『コーラス形式で』」という作品だった。

直ぐに、付属の解説書に目を通すと、ヴィラ・ロボスは、スペイン系の父とインディオの母との間にブラジルはリオ・デ・ジャネイロで生まれた現代音楽作曲家(1887年~1959年)だった。バルトークなどの影響も受けているらしい。

この何とも異端な現代音楽が、伝統あるヨーロッパのオーケストラに属する5人の名手たる演奏家たちから繰り出される妙技によって次々と表現されていくのだから、

「こりゃぁ~、たまらんっ!!」

 

現在に至っても、またもや興奮してくる(笑)。

 

クラリネット奏者カール・ライスターから「アンサブル・ウィーン=ベルリン」というスーパー木管五重奏団に辿り着いたのではあるけれど、当時の1984年頃というと、20歳代前半でもあって、クラシック音楽の古典派やロマン派の作品よりも、丁度、現代音楽にますますハマっていた頃でもあって、だから、まんまとタイミングよく、ヴィラ・ロボスのこの作品に一気に吸い込まれてしまったというのもあるだろう。

・・・

ん?・・・例の社会人1年目から2年目の頃とも重なっていたから、もしかすると痛みや傷口をこの曲でも埋め合わせていたかも知れない・・・。だけれど、この一曲に関してはその印象は全くない。何よりも、初めて盤に針を乗せたときの印象が強すぎて・・・(笑)。