今日の一曲 No.58:TOTO「ロザーナ(ROSANNA)」(アルバム「TOTOⅣ 聖なる剣」より)

「今日の一曲」の第58回目。

(前回の第57回目(2017/11/12)と併せてお読みいただくと流れがわかりやすいかと存じます。)

 

造波機でコントロールした水槽の波を見つめながら集めた実験データは、実験を共にした4人で協力し合って整理をした。その後は、実験データは共有するものの、4人別々の「卒業研究」テーマにしたがって、地味~な作業を、ときに孤独にコツコツと進めるのだった。

例えで簡単にその一つを紹介すると、コンピュータ解析に利用する理論式とそのプログラミングの仕方をコンピュータから得られる理論値と実験データとを比較しながら最適な解析方法を探る・・・とか、他にもアプローチの方法は様々だけれど。

同研究室に所属する大学生は私たち4人だけではなくて、同期生13人に、大学生活5年目、6年目というややユニークな先輩がそれぞれ1人ずつ、合計15人。他、院生(博士課程)4人が所属していて、大学生の「卒業研究」にもアドバイスをくれた。

でも、もっとも強力な「頭脳」となったアドバイザーは同期の中にいた!研究室紅一点の彼女にどんなに助けられたか(前回の第57回目にそれとなく登場させておいたのだけれど・・・気付いたかな?)。彼女について語るのは今回はここで停めておこう。またいつか・・・。

さて、この合計15人が、「卒業研究」を研究論文として、いよいよ形にしていく段階に入ると、研究室内は、常にこのメンバーで埋め尽くされる状態になっていた。一つ下の3年生の後輩たちも研究室に自然と遠慮して立ち寄らなくなる。

そんな研究室内にほぼ一日中籠る日が続いて・・・季節はそろそろ秋を迎えようとしていた。

 

卒業要件の科目や単位数は、「卒業研究」を除いては3年生までに満たしていて、なにも4年生になってから出席しなければならない講義も無かったのだけれど、深くない興味本位で、「哲学」と「経済学」を履修していた。

その「哲学」の講義がはじまる10分前くらいになると、決まって、別の研究室に所属する坂井(仮称)というヤツが、「哲学」の講義がある別棟までを一緒にと、私の所属する研究室に立ち寄ってくれた。

「おい、行こうぜぇ~」

と、研究室のドアをノックもせずに開けては、室内を見渡して私を探す素振りもなく、少々だらしない低音の声を発すから、研究室内では皆が黙々と作業を続けていてはくれるものの、彼に対してのヒンシュクの空気が、毎回、漂う。

<ごめん、ごめん・・・> 

を、顔面で作りながら身体も少し屈ませて、片方の掌を眉間の前に立てた仕草で、私が慌てるように研究室を離れるのも、また、常だった。

 

坂井は同じ学科で、大学入学以来、音楽談義をする仲間のひとりでもあって、初めから気が合った。彼は洋楽のポップスやロックの話題に明るかった。もう一つはオーディオ機器にメチャクチャ詳しかった。それは、坂井が彼のお父さんから受け継いでのことらしく、彼の自宅には、割と上等なオーディオ機器が揃ってしるらしい話を前々から聞かされていた。

「なぁ、一度、俺ん家に遊びに来て、家(ウチ)のオーディオで聴いてみてくれない?」

と、何度か誘われていた。

この日も、目指す講義室までを別棟をつなぐ渡り廊下を通って歩いていく間、同様な話になった。

<実質4ヵ月もしたら卒業かぁ~・・・>

<一度、行って聴かせてもらおうかな・・・>

という思いに遂になって、「哲学」の講義の後は、研究室がある元居た棟までを歩く間を互いの都合を突き合わせることになった。そして、彼の自宅にお邪魔させていただく日時が決まった。

・・・日曜日だったか、祝日だったと記憶している。

 

昼過ぎて午後2時頃だったと思う。早速、オーディオがセッティングされた広さ十分の洋間(10畳くらいだろうか)に通された。一瞬にして一目見ただけで分かる高価そうなオーディオ機器が並んでいた。

アンプ類は真空管アンプまで置いてあった。スピーカーはステレオで2系統に分けて流せるようにもなっている。レコード・プレーヤー(ターンテーブル)そのものも見るからに重厚感のある立派なもので、レコード針も、どうやら上等な部類のものだった。坂井の丁寧な説明を受けながら、贅沢にも一つひとつを覗き込むようにして、ゆっくりと時間を掛けて、まずは観察させてもらった。

 

「じゃあ、何か聴いてみようか!」

と、坂井からの提案に頷いたのだったが、彼の中ではもう選曲は決まっていた。

彼が手に持っていたのは・・・、TOTOの最新アルバム「TOTO Ⅳ 聖なる剣」、もちろんLPレコード盤だ(上の写真と同様)。

このLPレコード盤、当時、デジタル時代の到来にその技術はますます加速していた頃にあって、レコーディングとマスタリング、加えて盤の製造方法にいたるまで、最新のデジタル技術や新素材技術が盛り込まれた盤だった。

・・・などという説明も彼がしてくれて、上等なオーディオ器材で聴くことになった。

「TOTO」のメンバー、デビット・ペイチ(Kb & Voc)、ジェフ・ポーカロ(Drs & Perc)、スティーブ・ルカサー(Guitar & Voc)、スティーブ・ポーカロ(Kb & Voc)、デビット・ハンゲイト(Bass & voc)、ボビー・キンボール(Voc)、彼らから奏でられる音たち、そのサウンドも彼らが追及した最新の音であり、まさにテクニカル!

<整い過ぎるほどに洗練されたサウンド!>

<これがロック?>

<でも、これはこれでロックということかぁ~・・・>

などなど、戸惑いと葛藤が内なるところで繰り返し起きてしまう。

それは、アルバムA面の1曲目「ロザーナ(ROSANNA)」から、もう、いきなりだった。曲の冒頭から既に伝わってくる振動やら響きでさえ、これまで聴いた他とはまったく別モノに感じられるのだった。

これで終わらない・・・・!

「真空管アンプでも聴いてもらおうかな、でも1曲だけな」

坂井の更なる提案に、

「おおっ」

としか応えられないで頷いた。

高品質なオーディオ機器が置かれた部屋に案内されて、ここに居ながら、ここで鳴っている音、ここで聴いている音、その音の総てに、テクニカルの凄さを、ただ、ただ、魅せつけられ、圧倒されるばかり・・・。

・・・・

現在になって思い起こせば、それは、『TOTOの優れた演奏とレコーディングエンジニアたちの卓越した技能、最新デジタル技術と、積み重ねられてきた最高峰のアナログ技術とが、真にすべて融合しての凄さ』・・・ということだったのだろう。

・・・・

何度も、大きく息を吸い込んでは、暫く溜め込んでから、その息を長く吐き出したような気がする。

・・・・ 

夕食もごちそうになって、夕食後も、彼が持っているLPレコード盤を紹介してもらいながら、何枚かを聴かせてもらった。

で、そのまま泊まらせてもらった。

結局、夜更けまで音楽談義は止らなかったというわけで。

 

翌日から、また、研究室に居続けた。聴いたTOTOのサウンドがあまりに強烈過ぎて、数日間は脳裏に焼き付いたようにリピートされた。

一種の洗脳か・・・?

研究室を抜け出たある夕刻、レコード店へ行っては同LPレコード盤を買ってしまった(笑:上の写真)。

 で、この「ロザーナ」も、その後行った最後の実験、その最中に流すBGM用のカセットテープにダビングされるのだった(笑)。