今日の一曲㉚:ヴィセンテ・ゴメスの「禁じられた遊び(愛のロマンス)」

「今日の一曲」の第30回目。

今日は、記憶もかすかな幼い頃に聴いていた音楽、とてもレアな盤とともに紹介しよう。

 

ここのところ、10代後半から20歳代前半の頃に手にしたLPレコード盤からの「今日の一曲」が続いた。

高校生・大学生にくらいにならないとアルバイトをしたり、社会人として仕事に就いてからでないと、自分で自由にレコード盤を買うことは難しかったから、どうしても紹介する曲やレコード盤もこの頃のものが多くなってしまう。年齢的にも多感な時期というのも重なって、これらにまつわるエピソードも多くなる。

 

さて、今日、30枚目に紹介する盤とその一曲は、ずうっと時代を遡って、3歳〜4歳の頃に耳にしていた音楽だ。自身も僅かな記憶でしかない。

が、この音楽は、どうやら身体に染み込んでいるようだ。

 

ギター奏者ヴィセンテ・ゴメス(Vicente Gomez)の演奏による「禁じられた遊び(愛のロマンス:ROMANCE DE AMOR)」だ。

45回転のドーナツ盤、アナログSPレコード盤だ。

もちろん、3歳の私がこの盤を買えるわけでもなく、母の弟にあたる洋服職人の叔父がもともとは所有するものだ。

 

私の音楽好きは、ここから始まった。

 

洋服職人の叔父は、年に3回ほどだったらしいのだが、私が幼き頃に住んでいた家に遊びに来るたびに、途中、レコード店に寄って、買った1枚を手にして訪れてくれた。

当時、家にあった小さなレコード・プレーヤーで、叔父は無言のまま静かに聴くものだから、幼い私も、それが慣わしなのだと思い込んでしまったのだろう、叔父の横に正座して、黙って静かに一緒に聴いていた。

ちなみに、「正座で」というのは幼き私が自らそうしていたということだ(母と叔父の証言によると(笑))。

 

映画「禁じられた遊び」のBGMに用いられたことで広くに知られるようになった「愛のロマンス」は、ギター独奏曲の定番のように、多くのギター奏者によって奏でられている。

後々もこの曲を聴くことになるが、他の演奏者のものは、きれい過ぎる、滑らか過ぎる、スマート過ぎる・・・などと感じて、どれも、もの足りない。

 

 ヴィセンテ・ゴメスの「禁じられた遊び(愛のロマンス)」は、弦に指が引っ掛かり過ぎていると感じるほどゴツゴツした粗さのある演奏だ。テンポも速く、激しく情熱的で悲しげだ。クラシック・ギターというよりはスペイン伝統のフラメンコ・ギターという印象だ。アレンジも特有なもので、他の演奏では聴いたことがない構成になっている。

もう、ヴィセンテ・ゴメスの演奏が刷り込まれて、すっかり洗脳されているのだろう(笑)。 

 

「愛のロマンス」という曲は、そのテーマ(旋律)は古いスペイン民謡から来たものをヴィセンテ・ゴメスがアレンジして映画「血と砂」でのBGMとして「ヴィセンテ・ゴメス・クインテッド」によって初めて演奏されたということだ(このレコード盤のジャケット裏面の解説書による)。

この盤のB面には映画「血と砂」のテーマ曲として用いられた「セヴィリャーナスとパナデロス」も収録されていて、これもまた、ギターの醍醐味を味わえる聴きごたえ充分の演奏だ。

 

叔父は、来るたびに買ってきたレコード盤を持ち帰らずに、そのまま置いていってくれた。それで、くり返し聴くことができたのは私だった。父も母も、特別に音楽好きということはなく、幼い私が「レコードを聴きたい」と言い出したときだけ母がレコード・プレーヤーの針を盤に乗せて聴けるようにしてくれた。が、4歳になって幼稚園に通うくらいのときには、自分自身でプレーヤーの針を慎重に慎重に、緊張しながらレコード盤に乗せていた記憶がはっきりとある。

 

 突然、現代に立ち戻るが、今年1月、自らがプロデュースした「ほっと楽しやBirthday ライヴ」で、ゲスト出演してくれた babaリズムさんが、偶然にも、しかもご本人も予定していたわけでもなく、たまたまライヴの流れで「愛のロマンス」を演奏披露。客席でそれを聴いて勝手に目頭が熱くなってくるのを感じた。

 「ああ、この曲から始まったんだなぁ〜」と、あらためて噛み締めていた。

 

本格的な音楽活動・ライヴ活動は、病気を経て49歳になってからの私だ。

が、色々な音楽を聴く耳を育ててくれて、音の様々を楽しむ耳を育んでくれた音楽好きのルーツは、このヴィセンテ・ゴメスの「禁じられた遊び(愛のロマンス)」にあると感じる。

 

私の命をも救ってくれた音楽、その始まりの音楽を「今日の一曲」として、紹介させていただいた。